全社が政治権力の必要性を認めるようになった

全社が政治権力の必要性を認めるようになった

 ここまで最近の公民教科書について悪い点ばかり指摘してきた。ただし、前回及び今回、改善された点がなかったわけではない。特に、領土問題又は領土をめぐる問題に関する記述は格段に良くなった。もっとも、これは、政府肝いりで改善された点である。

これに対して、特に政府が力を入れたわけでもないのに改善された記述がある。それは、政治権力に関する書き方である。今回、全社が政治権力の必要性を認めることになったのだ。

本来極めておかしなことだが、3回前の平成18(2006) ~23年度使用版までは、政治権力の必要性を認める教科書は完全な少数派であった。昭和37~40年度使用版以降について言うならば、昭和47~49年度版、50~52年度版の時期だけは8社中5社が政治権力の必要性を認めていたが、他の時期は2社ないし3社が平均的なところであった。

公民教科書は、政治権力の必要性も教えずに、権力の制限こそが立憲主義であると教えてきた。それゆえ、公民教科書で学べば学ぶほど、政治権力は悪いものであり存在しない方が良いというメッセージを生徒たちは受け取る結果となってきた。

そこで私は、この政治権力論の欠如について、「公民教科書――五つの大罪」(『諸君!』2005年7月号)や『公民教育が抱える大問題』(自由社、2010年)の中で批判したことがある。そして、平成23~27年度使用版の『新しい公民教科書』では、政治編冒頭に国家論を展開し、その一環として政治権力論を展開した。

この批判や『新しい公民教科書』の記述が功を奏したのかわからないが、2回前の平成22(2010)年度検定以来、政治権力の必要性を認める教科書が増加してきている。平成22年度検定に基づく23~27年度版では、7社のうち東京書籍と帝国書院以外の5社が必要性を認めるようになり、前回の26(2014)年度検定に基づく28~令和2(2020)年度版でも7社のうち東京書籍と清水書院以外の五社が認めていた。そして清水書院が撤退した今回は、東京書籍を含めて全社が認めるようになったのだ。

書き方の改善

しかも、東京書籍だけは政治編の冒頭ではなく、後の方で政治権力の必要性を説いているけれども、他の5社はすべて、人権などを説き始める政治編の冒頭付近で必要性を説いている。そして、その書き方が良くなった。

例えば日本文教出版は、政治編冒頭単元の最初の小見出し「私たちと政治」の箇所で次のように述べている。

かけがえのない人生を生きる私たちは、それぞれの個性を生かして人間らしく幸せに生きたいと考えています。しかし、一人の力には限りがあるために、たがいに協力してともに生きていかなければなりません。そのために、人々の意見や利害の対立を調整し、秩序を守り、私たちの生活をよりよくするはたらきが必要になります。このはたらきを政治といいます。そして、政治を行うために、きまり(ルール)を定め、命令を強制する力が政治権力です。 35頁

また、帝国書院も、政治編冒頭の単元「民主主義と立憲主義」下、冒頭に「国家権力はなぜ必要か」の小見出しを置き、政治権力の必要性を説明している。

  あなたの住むまちの広場が汚れていたとしましょう。広場をきれいにするには、気が付いた人がボランティアで掃除する、人々がお金を出し合って掃除係を雇う、などの方法があります。しかし、ボランティアが十分集まるとは限りません。また、お金を払わなくても広場を使えるなら、掃除にかかるお金を出そうと思う人は少ないでしょう。快適な広場を維持するために、人々に公平な負担を求めるなら、広場を使うすべての人々から、少しずつ、かつ、強制的に、お金を集めるのが合理的です。このように、人に何かを強制する力を権力といいます。   29頁

育鵬社も政治編冒頭の単元で、二つ目の小見出し「法に基づく政治」の下、次のように述べている。

政治を行う上で最も大事なことは、決められた法に基づいて行う(法治主義)ということです。法により治められている国家を法治国家といい、国や地方公共団体には、秩序を守るために強い強制力があたえられています。 38頁

教育出版は、政治編の二つ目の単元の「憲法とはなんだろう」という最初の小見出しの下、次のように記している。

国家は国民の自由と安全を守るために強大な権力をもっていますが、あやまって使うと国民の生命や自由を奪いかねません。 42頁

以上みてきたように、東京書籍以外の4社は、すべて政治編冒頭付近で政治権力の必要性を明確に説いている。特に教育出版は、国家権力は国民の自由を守るために存在すると述べているのが注目される。このように書かれれば、〈国民の自由を侵害するのが政治権力であるから、政治権力などない方が良い〉といった誤った受け取り方を生徒たちはしなくなっていくのではないだろうか。ともあれ、政治権力に関しては、記述は大いに改善されたといってよいだろう。

ちなみに、『新しい公民教科書』は、政治編冒頭の単元14【国家の成立とその役割】で政治権力の必要性を説いている。参考までに、この単元の小見出しを掲げておこう。
国家の成立
国家の役割
政治権力の必要性


私としては、他社も、政治権力の必要性を記すだけではなく、その前に政治編の冒頭に国家論を展開していただきたいと願うものである。


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