「つくる会」が達成したこと、達成できていないこと(2)--日本犯罪国家観に風穴を開ける

 少し休んでしまったが、「つくる会」は何を達成したのか、何を達成できていないのか、箇条書きで記す作業を継続したい。

一、「つくる会」の達成したこと(続)

③朝鮮人徴用の記述の改善……平成17年版


 平成16(2004)年、新たに藤岡信勝氏を代表執筆者とする『新しい歴史教科書』と、八木秀次氏を新たな代表執筆者とする『新しい公民教科書』との検定申請が行われた。共に翌17年に検定合格し、同年の採択戦に臨んだ。結局、目標の10%には遠く及ばす、『新しい公民教科書』よりは採択の多かった『新しい歴史教科書』にしても0.4%の採択率に止まった。採択率で以て「つくる会」運動の成否を測るならば、完全な惨敗に終わったと言ってよい。

平成8年版の朝鮮人徴用の記述

 しかし、1980年代以来、日本社会を覆ってきた日本犯罪国家観の蔓延に風穴を開けた功績は、第一に「つくる会」のものである。前回報告したように、「つくる会」効果は慰安婦問題を教科書から一旦追放する形ですぐ現れたが、平成17年版の各社教科書では「強制連行」と位置付ける教科書は一挙に少数派になってしまった。「つくる会」教科書が登場する直前の平成8年版では、7社中5社が「強制連行」の言葉を使い、日本書籍と帝国も「強制的に連れてきて」と記している。全社が強制連行の位置付けをしていたと言えよう。

 しかも、かなりの教科書が「強制連行」を特別に取り上げるコラムを設けていた。東書は「朝鮮人強制連行」というタイトルの1頁コラムを設けていた。大阪書籍は「強制連行のようす」という小コラムを設け、朴慶植『朝鮮人強制連行の記録』(1965年、未来社)から「町を歩いている者や、田んぼで仕事をしている者など手当たりしだい、役に立ちそうな人はかたっぱしから、そのままトラック乗せて船まで送り、日本に連れてきた。徴用というが、人さらいですよ。」という文言を引用していた。教出も「朝鮮・中国から強制連行された人々」という2頁コラムを設けていた。

「強制連行」から「意に反して連れてこられ」への変化

 ところが、平成13年版で初登場の『新しい歴史教科書』が「徴用」という位置づけを明確に出すようになると、平成17年版では、一挙に、強制連行と位置付ける教科書が日本書籍新社、大書、清水の三社に減少してくる。そして、教科書の平均的なところは、おおよそ、東書の「日本に連れてこられて、意思に反して働かされた朝鮮人、中国人などもおり、その労働条件は過酷で、賃金も低く、きわめてきびしい生活をしいるものでした」(193頁)というような記述となる。以後、改善されつつあるが、基本的には同様の状態が続いている。

 世界遺産登録問題と教科書記述の関連

 ここまでの徴用の記述をめぐる変遷史を振り返ると、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録問題を思いだす。日本側が押し負けて(騙されて)韓国との間で合意してしまった「意に反して働かされた」(forced to work)という文言のことだ。これは、平成17年版以降の平均的な中学校歴史教科書の立場を表した表現だ。

 もしも、10年以上前の時代だったら、日本側はすぐに強制労働(forced labor)にせよという韓国の要求を受け入れていただろう。そう思うと、強制連行という位置付けの教科書を少数派に追いこんだ「つくる会」の教科書運動は一応の成果を上げたとも言える。

 しかし、同時に、強制連行と位置付ける教科書も、「意に反して働かされた」とする教科書も追放できていないからこそ、今回の世界遺産問題における日本側敗北を招いたとも言えよう。基本的には、日本外交の意気地の無さが招いた敗北ではあるが、私には教科書運動の不十分さが招いた結果だとも見えている。自由社や育鵬社の記述にしても、合法的な徴用という位置付けではあるが、一種の日本の「悪行」のようにも読めるものになっている。改善すべきだと思われる。

④自虐化のリーダーであった教科書会社を倒産させる 

ともあれ、平成17年版の各社朝鮮人徴用に関する教科書記述は、大きく改善され、かなり自虐の程度を薄めることになった。この動きと関連するのか、長らく、教科書の自虐化を中心的に推進してきた共産党系の日本書籍が倒産し、これを受けついだ日本書籍新社が17年の採択戦に参戦した。しかし、13年の採択戦に続く惨敗となったため、経営的に立ちいかなくなり、倒産した。こうして、自虐化を主導してきた教科書を追放することに成功したのである。
 
⑤「南京大虐殺」→「南京事件」→記述なし

 第五に「つくる会」の達成したこととしては、虚構の「南京事件」の記述を改善してきたことがある。「つくる会」の教科書が初めて登場した平成13年版では、大虐殺の位置付けをする教科書が一挙に8社中4社に減少し、残りの半数が「南京事件」又は「虐殺事件」と称するようになる。平成17年版でも同様の状態が続くが、日本書籍新社が撤退したこともあり、平成23年版では、「南京事件」とする教科書が多数派となる。そして、今回の27年版では、「南京大虐殺」が東書と清水の2社グループ、「南京事件」が育鵬社、日文、教出、帝国、学び舎の5社グループ(学び舎はかなりひどく、或る意味「南京大虐殺」とする教科書よりもひどい)、「南京事件」の記述をそもそもしないのが自由社一社という構図となった。
 次回検定では、「南京事件」をそもそも書かない教科書が多数派となることを期待する。

「つくる会」なかりせばと考えるとぞっとする

 更に、次回以降に「つくる会」が達成したことを見ていきたいが、もしも「つくる会」なかりせばと考えてみると、ぞっとする。「南京事件」については、今も平成8年版のように大虐殺説が書かれ、20万人虐殺という数字が踊っていただろう。また、「従軍慰安婦」の記述も全教科書で行われていただろうし、朝鮮人の強制連行という文字が全社で踊っていただろう。
 (続く)

*参考文献 1、「『つくる会』の歩みを振り返る」『史』平成25年9月号
      2、拙著『歴史教科書が隠してきたもの』2009年、展転社
      3、松木国俊「世界遺産登録は日本外交の大失態」『史』平成27年9月号
      4、 6月14日「つくる会」シンポジウム――歴史教科書の歴史における「南京事件」
        http://tamatsunemi.at.webry.info/201506/article_1.html  


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