「つくる会」を背後から刺した「教科書改善の会」
「つくる会」-自由社の教科書採択戦は惨敗した。その第一の理由は、教科書編集のチェック体制の不十分さである。その不十分さゆえに、平成22年度版歴史教科書を作成するにあたって、自由社の元編集者が東書平成14年度版から年表を盗用していた事実に気付かなかった。また、そのお粗末さゆえに、24年度版教科書(今回)の作成にあたって、22年度版の年表に盗用がある事実に全く気付かず、22年度版年表を基にして今回の年表を作成してしまったのだ。
この年表問題に気付いたのは、教科書ネット21などの左翼ではなく、教科書改善の会だった。そして、大問題に仕立てたのも、改善の会である。改善の会の事務局を務める日本教育再生機構の理事長八木秀次氏は、この事実に4月に気付いていたという。5月26日には、プロジェクトJと名乗る者の「正統保守の敵『つくる会』一部首脳を追撃します」というブログに、「東京書籍の年表を盗用した自由社版教科書-記述検証〈6〉」という記事が掲載された。このブログは、八木氏と極めて近い現役新聞記者の○○氏が開設したものと言われている。これは、ブログ名に見られるように、「つくる会」攻撃のためだけに作られた改善の会側のブログであるが、同じようなブログを改善の会側は多数つくり上げている。
それはともかく、この記事の中で、○○氏は、「著作権侵害ですから、採択から撤退することをお勧めします。東京書籍と文部科学省には連絡しておきました」と記している。「つくる会」を売ったのである。その後、その翌日には、「新しい歴史教科書をつくる会WATCH」というブログに「自由社版教科書が東京書籍の年表を盗用」という記事が掲載された。そして、6月以降、以下のような流れで、自由社の完全敗北の流れが作られてしまう。
6月14日、朝日新聞、「つくる会歴史教科書、他社の年表と酷似」という記事
6月22日、自民党横浜市会議員団の主催で、中学校教科書採択を考える勉強会、約150人の集会……朝日新聞を使い、八木氏、5分間にわたって年表問題を取り上げる。
7月27日、衆院文部科学委員会で、日本共産党の宮本議員が、年表問題について質問
8月2日、読売新聞、毎日新聞等、一斉報道
8月4日、横浜市、育鵬社歴史・公民教科書採択される。
要するに、○○氏が公言しているとおり、教科書改善の会がつくる会を刺したのである。「つくる会」は手ひどい重傷を負ったが、ここまで私が述べただけの事ならば、「汚いなぁ」と言って済ましてしまうしかない話かもしれない。
「つくる会」攻撃に執念を燃やす「改善の会」
だが、事はそんなに簡単ではない。そもそも、東書も自由社も気付いていなかった問題をなぜ改善の会は気付いたのであろうか。自由社の元編集者から聞いた可能性もあるが、プロジェクトJの言うように、自力で見つけたと考えた方がよいだろう。ともかく、自由社を叩くためならば、自由社版を隅から隅まで点検し、誤字や誤植のような小さなミスまで大問題に仕立てることに喜びを感じている人(たち)のブログだからだ。何しろ、「自由」が「自白」になっているとか、「陸奥宗光」や「梶山静六」の字が間違っていると言って、大問題として一つの記事に仕立て上げているブログである。きっと、執念で年表のおかしさを見つけだしたのだろう。
改善の会は、年表問題を批判する資格はない
しかし、改善の会には、「つくる会」を年表問題で批判する資格はないと言うべきである。なぜか。彼らは、扶桑社の歴史教科書(代表執筆者藤岡信勝)、すなわち「つくる会」の歴史教科書を丸ごと基本的にバクッているからである。しかも、「つくる会」あるいは自由社の年表問題は、過失によって生まれたものであるが、故意によるものではない。これに対して、改善の会は、故意に、扶桑社の歴史教科書をトータルで乗っ取ったのである。
前にも述べたが、改善の会が支援する育鵬社は、一から新しく歴史教科書をつくる責務があったのだが、それを怠った。そして、扶桑社版を土台にして、教科書を作成したのだ。育鵬社歴史教科書は、盗作という言い方はあえてしないが、「つくる会」側の著作権を侵害したものである。故意に著作権を侵害した人たちが、それも極めて大がかりに侵害した人たちが、過失による侵害を批判することなど、出来ないというべきだろう。
実は、4月の段階で、育鵬社歴史教科書を読んだとき、平成18~23年度扶桑社版・平成22・23年度自由社版と随分類似しているなという感じがした。文章は変えているが、これは著作権を侵害しているのではないかという感じがした。だが、これを問題にし出すと泥仕合になると思われたし、泥仕合になると、育鵬社も自由社も共倒れになるのではないかと判断された。また、自由社だけではなく、育鵬社の歴史教科書も伸びることは良いことである、と考えられた。
というような考え方から、一応、この類似問題は採択戦の間は基本的には問題化しないでおこうという方針になった。それゆえ、これまで、この類似問題に関して改善の会を批判することは避けてきたわけである。つまり、育鵬社は、「つくる会」に守られて採択を伸ばしたわけである。
「つくる会」は、一応、改善の会をライバルとして、あるいは腹の立つ「仲間」として見てきた。これに対して、「改善の会」の一部は、と言っても中枢に近い一部は、「つくる会」に怨念をもち、敵として、あるいは少なくとも潰すべき相手として考えている節がある。だからこそ、今回の年表問題を文科省や東京書籍などに通報したのである。本当に汚い人たち、非倫理的な人たちである。
改善の会とは何か
結局、改善の会とは、何なのだろうか。3つの見方ができる。
(ⅰ)人間関係がもつれて「つくる会」から出ていった人たちが作った→「つくる会」と「改善の会」には思想的な違いはない
(ⅱ)思想的な違いはなかったかもしれないが、結局、思想の違いが生まれた。出ていった人たちは、「戦後レジーム」(属国日本の体制)の中に教科書改善運動を閉じ込めるために、教科書内容を少し左寄りに持っていこうとした。そうすれば、採択が増やせると考えた。
しかし、「戦後レジーム」の解体を多少とも狙っている「つくる会」と採択市場が重なるため、「つくる会」の教科書に勝つためには、左に持っていくにも限界が生まれる。
*育鵬社の歴史教科書は、2年前の自由社版歴史教科書を意識したから余り左寄りにならなかった。これに対して、公民教科書は、ライバルとなる「つくる会」の公民教科書がなかったため、余りにも左寄りの低レベルの教科書になってしまった。
(ⅲ) 「戦後レジーム」の中に教科書改善運動を閉じ込めるためには、「つくる会」をつぶす必要がある。「つくる会」をつぶさないと、改善の会は採択競争に敗れて潰されるか、潰されないとしても改善の会までもが「戦後レジーム」解体の方向に動いてしまうことになるだろう。「つくる会」をつぶすためには、汚いことをしても許される。
もう一つすっきりしないが、以上のように思われる。私が「つくる会」理事になった4年前には、(ⅰ)の見方が一般的な見方だったように思うし、人間関係のもつれという要素は大きかったと思われる。しかし、今回、教科書討論会などを通じてはっきりしたのは、もはや(ⅰ)の見方は当てはまらないということである。この点がはっきりしただけでも、今回の採択戦は意味があったのかもしれない。一応、改善の会全体については、(ⅱ)の見方が正しいと思われる。ただ、改善の会の一部は、明らかに(ⅲ)の見方で捉えるべきであろう。
次回は、育鵬社歴史教科書と扶桑社歴史教科書の関係を検討していこう。
この年表問題に気付いたのは、教科書ネット21などの左翼ではなく、教科書改善の会だった。そして、大問題に仕立てたのも、改善の会である。改善の会の事務局を務める日本教育再生機構の理事長八木秀次氏は、この事実に4月に気付いていたという。5月26日には、プロジェクトJと名乗る者の「正統保守の敵『つくる会』一部首脳を追撃します」というブログに、「東京書籍の年表を盗用した自由社版教科書-記述検証〈6〉」という記事が掲載された。このブログは、八木氏と極めて近い現役新聞記者の○○氏が開設したものと言われている。これは、ブログ名に見られるように、「つくる会」攻撃のためだけに作られた改善の会側のブログであるが、同じようなブログを改善の会側は多数つくり上げている。
それはともかく、この記事の中で、○○氏は、「著作権侵害ですから、採択から撤退することをお勧めします。東京書籍と文部科学省には連絡しておきました」と記している。「つくる会」を売ったのである。その後、その翌日には、「新しい歴史教科書をつくる会WATCH」というブログに「自由社版教科書が東京書籍の年表を盗用」という記事が掲載された。そして、6月以降、以下のような流れで、自由社の完全敗北の流れが作られてしまう。
6月14日、朝日新聞、「つくる会歴史教科書、他社の年表と酷似」という記事
6月22日、自民党横浜市会議員団の主催で、中学校教科書採択を考える勉強会、約150人の集会……朝日新聞を使い、八木氏、5分間にわたって年表問題を取り上げる。
7月27日、衆院文部科学委員会で、日本共産党の宮本議員が、年表問題について質問
8月2日、読売新聞、毎日新聞等、一斉報道
8月4日、横浜市、育鵬社歴史・公民教科書採択される。
要するに、○○氏が公言しているとおり、教科書改善の会がつくる会を刺したのである。「つくる会」は手ひどい重傷を負ったが、ここまで私が述べただけの事ならば、「汚いなぁ」と言って済ましてしまうしかない話かもしれない。
「つくる会」攻撃に執念を燃やす「改善の会」
だが、事はそんなに簡単ではない。そもそも、東書も自由社も気付いていなかった問題をなぜ改善の会は気付いたのであろうか。自由社の元編集者から聞いた可能性もあるが、プロジェクトJの言うように、自力で見つけたと考えた方がよいだろう。ともかく、自由社を叩くためならば、自由社版を隅から隅まで点検し、誤字や誤植のような小さなミスまで大問題に仕立てることに喜びを感じている人(たち)のブログだからだ。何しろ、「自由」が「自白」になっているとか、「陸奥宗光」や「梶山静六」の字が間違っていると言って、大問題として一つの記事に仕立て上げているブログである。きっと、執念で年表のおかしさを見つけだしたのだろう。
改善の会は、年表問題を批判する資格はない
しかし、改善の会には、「つくる会」を年表問題で批判する資格はないと言うべきである。なぜか。彼らは、扶桑社の歴史教科書(代表執筆者藤岡信勝)、すなわち「つくる会」の歴史教科書を丸ごと基本的にバクッているからである。しかも、「つくる会」あるいは自由社の年表問題は、過失によって生まれたものであるが、故意によるものではない。これに対して、改善の会は、故意に、扶桑社の歴史教科書をトータルで乗っ取ったのである。
前にも述べたが、改善の会が支援する育鵬社は、一から新しく歴史教科書をつくる責務があったのだが、それを怠った。そして、扶桑社版を土台にして、教科書を作成したのだ。育鵬社歴史教科書は、盗作という言い方はあえてしないが、「つくる会」側の著作権を侵害したものである。故意に著作権を侵害した人たちが、それも極めて大がかりに侵害した人たちが、過失による侵害を批判することなど、出来ないというべきだろう。
実は、4月の段階で、育鵬社歴史教科書を読んだとき、平成18~23年度扶桑社版・平成22・23年度自由社版と随分類似しているなという感じがした。文章は変えているが、これは著作権を侵害しているのではないかという感じがした。だが、これを問題にし出すと泥仕合になると思われたし、泥仕合になると、育鵬社も自由社も共倒れになるのではないかと判断された。また、自由社だけではなく、育鵬社の歴史教科書も伸びることは良いことである、と考えられた。
というような考え方から、一応、この類似問題は採択戦の間は基本的には問題化しないでおこうという方針になった。それゆえ、これまで、この類似問題に関して改善の会を批判することは避けてきたわけである。つまり、育鵬社は、「つくる会」に守られて採択を伸ばしたわけである。
「つくる会」は、一応、改善の会をライバルとして、あるいは腹の立つ「仲間」として見てきた。これに対して、「改善の会」の一部は、と言っても中枢に近い一部は、「つくる会」に怨念をもち、敵として、あるいは少なくとも潰すべき相手として考えている節がある。だからこそ、今回の年表問題を文科省や東京書籍などに通報したのである。本当に汚い人たち、非倫理的な人たちである。
改善の会とは何か
結局、改善の会とは、何なのだろうか。3つの見方ができる。
(ⅰ)人間関係がもつれて「つくる会」から出ていった人たちが作った→「つくる会」と「改善の会」には思想的な違いはない
(ⅱ)思想的な違いはなかったかもしれないが、結局、思想の違いが生まれた。出ていった人たちは、「戦後レジーム」(属国日本の体制)の中に教科書改善運動を閉じ込めるために、教科書内容を少し左寄りに持っていこうとした。そうすれば、採択が増やせると考えた。
しかし、「戦後レジーム」の解体を多少とも狙っている「つくる会」と採択市場が重なるため、「つくる会」の教科書に勝つためには、左に持っていくにも限界が生まれる。
*育鵬社の歴史教科書は、2年前の自由社版歴史教科書を意識したから余り左寄りにならなかった。これに対して、公民教科書は、ライバルとなる「つくる会」の公民教科書がなかったため、余りにも左寄りの低レベルの教科書になってしまった。
(ⅲ) 「戦後レジーム」の中に教科書改善運動を閉じ込めるためには、「つくる会」をつぶす必要がある。「つくる会」をつぶさないと、改善の会は採択競争に敗れて潰されるか、潰されないとしても改善の会までもが「戦後レジーム」解体の方向に動いてしまうことになるだろう。「つくる会」をつぶすためには、汚いことをしても許される。
もう一つすっきりしないが、以上のように思われる。私が「つくる会」理事になった4年前には、(ⅰ)の見方が一般的な見方だったように思うし、人間関係のもつれという要素は大きかったと思われる。しかし、今回、教科書討論会などを通じてはっきりしたのは、もはや(ⅰ)の見方は当てはまらないということである。この点がはっきりしただけでも、今回の採択戦は意味があったのかもしれない。一応、改善の会全体については、(ⅱ)の見方が正しいと思われる。ただ、改善の会の一部は、明らかに(ⅲ)の見方で捉えるべきであろう。
次回は、育鵬社歴史教科書と扶桑社歴史教科書の関係を検討していこう。
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