「日本国憲法」3原則か7原則か―――『新しい公民教科書』検定過程(15)

  7原則という表現をした申請本 

  申請本は、単元18「日本国憲法の原則」で、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義のいわゆる三原則に加えて、立憲君主制、法治主義、間接民主主義、三権分立の四原則を「日本国憲法」の原則として挙げていた。この単元全体に対して、検定意見が3件付いた。54,55,56番の3件である。54番、56番は後にみるとして、今回は55番について見ていきたい。

  この単元には2つの小見出しがあった。「日本国憲法の3原則」と「立憲主義が支える日本国憲法7原則」である。また、52頁上欄に「立憲主義が支える日本国憲法7原則」という表題の図を掲げていた。この7原則という書き方に対して、「日本国憲法を学ぶ上で、学習上の支障を生ずるおそれがある」という55番の意見が付いた。それゆえ、12月6日、調査官と我々の間には、次のようなやり取りがあった。

調査官 3原則というのは指導要領にも書かれているんですが、7原則というまとめ方は一般的ではないので、学習上の支障を生ずる。

執筆者 3原則は定説ではありません。公民教科書から生まれたんです。昔は学習指導要領になかったし、三原則て書かなくても今まで検定通っているんです、いくつか。

調査官 書かなくても、内容に触れていればいい。

執筆者 我々も書いている。日本国憲法はまず3原則って書いていましたね。その上で7原則(と書いている)

執筆者 「7」と書かなければいいんですか。

調査官 先生方の説を否定しているのではなくて、ごく一般的な書き方をしてほしい。


  「三原則て書かなくても今まで検定通っているんです」というのは私の発言であるが、これは特に『新しい公民教科書』の初版のことを指している。『新しい公民教科書』初版は、「日本国憲法の基本原則」の小見出し下、象徴天皇制度、国民主権、平和主義、基本的人権尊重、議会制民主主義の5つの原則を記していた。初版のことを念頭に、私は、3原則と必ずしも書かなくても良いのだから、3原則と7原則と二つの書き方をしておけば問題ないのではと言っているのである。

  7原則の明記を諦める

  上記のようなやり取りをふまえて、7原則という書き方を諦めることにした。そして、1月17日の修正表では、2つ目の小見出しと52頁上欄の図を「立憲主義が支える日本国憲法の原則」と変更した。更に、いわゆる3原則を他の4原則よりも強調するように文章を改めた。申請本では、我々は、「日本国憲法の3原則」の小見出し下、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の三原則を記し、次いで「立憲主義が支える日本国憲法7原則」の小見出し下、冒頭で以下のように記していた。

  このような3原則の他にも、日本国憲法は立憲主義の憲法としてさらに4つの原則に基づいています。その上で通常いわれる憲法の3原則が支えられています。 (53頁)

  この書き方、特に傍線部に注目すれば、いわゆる3原則と他の4原則が同等であるようにも読めてしまう。そこで傍線部を削除し、次のような修正文を作成した。

  このような3原則を支えているのは、立憲主義の憲法としての原則です。 (53頁)

   実質的には7原則説で記すことができたが、4原則をいわゆる3原則より明確に格下のものとして書かざるを得なくなり、7原則という言い方は消されてしまった。私には、このことが非常に残念である。

  「日本国憲法」の第一原則は、前文を読んでいだければ分かるように、国民主権ではなく、実は間接民主主義である。また、第一条に注目していただければ分かるように、国民主権というものは天皇の地位を基礎づけるための道具立てに使われているにすぎない。それゆえ、少なくとも、間接民主主義と立憲君主制は、国民主権など3原則と対等な原則であるといえよう。にもかかわらず、国民主権など3原則を他の4原則よりも格上のものとして位置づけなければならないとは、何ともおかしなものである。

  しかも、何度も述べてきたが、3原則とは全体主義的な民主主義に道を開く原則である。それに対して、我々が付加した4原則はいずれも、立憲主義的・自由主義的な原則である。3原則説を広めようとする中学校公民教育は、日本の全体主義化を目指していると言えよう。

  更に言えば、我々が記した7原則説は厳密にはオリジナルなものとはいえ、特殊なものでは決してない。昭和33年度版中学校学習指導要領は、基本的人権、平和主義、国民主権、三権分立、代議制、議院内閣制、象徴天皇の7原則を挙げている。学習指導要領が、かつて、我々の7原則説と極めて近い位置づけをしていたことを強調しておこう。

  7原則という言い方が消されたこと以外にも、残念なことがある。それは、4原則の真っ先に挙げていた立憲君主制の原則が象徴天皇の原則に修正させられたことである。この問題の報告は、次回以降にする。



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