育鵬社公民教科書はなぜ低レベルのものになったのか

     
 今回、育鵬社教科書は、歴史も公民も大きく採択率を伸ばした。このことは、育鵬社教科書を保守派の、あるいは保守独立派の教科書と評価するならば、めでたいことである。

 確かに、これまで述べてきたように、歴史教科書については、深刻な問題もはらんでいるとはいえ、一応保守独立派の教科書として評価することができる。が、公民教科書については、とても保守派の教科書とはいえない低レベルのものになってしまった。それゆえ、歴史に関してはめでたいことといえるが、公民に関してはそうではない。反って、今後に禍根を残す結果になったといってよい。


(1)育鵬社教科書の問題点
 
   では、育鵬社教科書の何が問題か。これまで触れてきたように、以下のものを重要な問題として挙げておかなければならない。

○歴史教科書

  ①ルビ問題……中国(・韓国)による日本侵略は、単に軍事的・外交的・経済的に行われるのではない。思想的・精神的に行われている。実は、日本侵略にとって一番効果があるのが、思想的・精神的な領域における侵略である。思想的侵略の一環が、黄河文明から中国文明へ、満州から中国東北部への表記の変化である。

  ルビ問題は、この二つの表記変化をはるかに超える深刻な問題をはらむ。中韓の手に落ちたと言われるテレビだって中国人の名を音読みで行っているではないか。それなのに、中国語も韓国語も習っていない中学生に対して中国語読み韓国語読みを押し付けるということは、日本語の言語体系を維持するという「国益」よりも、「近隣諸国への配慮」を優先させたことを意味する。まさしく、中韓への隷属意識の表れである。

  保守を標榜する教科書さえも中国語読み韓国語読みをするとすれば、自虐5社は、ますます中国語読み韓国語読み化の道を突き進むだろう。育鵬社は、本当に馬鹿な事をしたものだ。こんなことをしなくても、検定に合格できるし、採択を伸ばすこともできよう。何か、変な背景があるのではないか。フジテレビを通じて韓国の手が育鵬社に及んでいるのではないことを願う。及んでいようといまいと、育鵬社は、ルビ問題において、日本が中国・韓国の属国化していく一里塚を築く片棒を担いだことになるのだ。

 ②1937年「南京事件」……教科書改善の会設立時には、わざわざ1937年「南京事件」にふれ、「事件」を肯定も否定もしない中間的な立場に立つと述べていた。だが、今回は、最初から「南京事件」の存在を肯定する立場から検定申請していたのだ。1937年「南京事件」をどう記述するかは、教科書改善運動にとって象徴的な問題だったはずである。この問題において、設立時の方針を曲げてしまったのである。ともかく、思想・学問に不誠実な態度がここに表れているといえよう。

 ③創氏改名……日本の韓国に対する「悪行」として象徴的な事柄が、創氏改名である。育鵬社は、検定申請本から「日本式の姓名を名のらせる創氏改名」と記し、そのまま検定合格させている。自虐5社と全く変わらない記述となっている。ここにも、韓国への屈服が見られるのである。
   *現行扶桑社版では、「日本式の姓名を名乗ることを認める創氏改名」と記して検定申請していた。検定の結果、「日本式の姓名を名乗らせる創氏改名」に修正させられていた。結果は今回と同じだが、検定という形で行われている事実上の検閲に挑戦していたのである。


○公民教科書 

  上記のような重大な問題があるとはいえ、前に書いたように、歴史教科書は一応評価できるものになった。だが、公民教科書の場合は、全く評価できないものになった。特に私が重要と考えるものをまとめておきたい。

①家族解体を促す家族論……前の記事で述べたように、新学習指導要領は、教育基本法に違反して、共同社会を破壊していく思想を表明した。それゆえ、実は、今回の採択戦の本質的な焦点は、共同社会を維持再建していくのか、解体していくのかということにあったのである。この観点からすれば、育鵬社の公民教科書は、帝国書院を除く自虐5社と同じ程度に共同社会を破壊していく教科書である。

  前に述べたように、育鵬社は、効率と公正のバランスを見極めて家族間の合意を作り出すという原則を展開し、その模範例として父親の単身赴任に関する家族会議を紹介し、効率の観点の方をより重視して父親に単身赴任させるという結論を導いている。この書き方は、家族を機能集団化して解体していこうとする思想を表明している。育鵬社の家族論は、最も害毒のあるものだとは確実に言えよう。

  更に扶桑社版から継続する問題であるが、育鵬社は、自虐5社と同じく、親子関係を指導被指導の関係として捉えようとしない。だからこそ、上記家族会議に中学生の子供も参加させているわけである。

②愛国心、愛郷心、公共の精神の教育の放棄

  上に見た共同社会維持か解体かという観点からすれば、愛国心、愛郷心、公共の精神の教育をしているかどうかが問題になる。何度も書いてきたが、育鵬社は、愛国心の言葉も愛郷心の言葉も用いていない。公共の精神という言葉は育鵬社に存在するが、その定義は存在せず、公共の精神の教育を育鵬社がする姿勢にあるとは言えない。何しろ、「公共の精神」は、ゴチックになっていないし、索引にも出てこない。

  今回は、愛国心などの教育を進める絶好のチャンスであった。平成18年に教育基本法が改正されて、愛国心、愛郷心、公共の精神の育成が教育の目標として掲げられたからである。ところが、育鵬社は、自虐5社と申し合わせたかのように、この三者の教育を放棄したのである。

  しかし、教科書改善の会が設立された時に発表された「設立趣意書」には、次のように書かれていた。

  昨年十二月、制定から約六十年を経てはじめて「教育基本法」が改正され、さらに本年六月には、学校教育法などの教育三法も改正され、教育をめぐる「戦後の枠組み」は根本的に改められることになりました。教科書においても、近く「学習指導要領」が改訂され、次回の教科書検定より改正された教育基本法、学校教育法、及び学習指導要領の新しい指導理念のもと、従来の教科書は大幅に書き改められることになったのです。

 これまでにも幾たびか教科書改善の道は模索されてきました。しかしながら、「旧教育基本法」が厚い壁となってそれを阻んできました。「旧教育基本法」は、自国への「愛」や「道徳心」を育み、「公共の精神」を重んじ、先人が培ってきた尊い「伝統」を受け継ぐという、どの時代、どの国であっても、およそ公教育には不可欠な理念が欠落しているものでした。その結果、「旧教育基本法」のもとでの教科書改善は、執筆にせよ、採択にせよ、どうしても限界をともなうものでした。
しかし、今、その壁が取り払われたのです


 私たちは、このような新時代の到来を歓迎するとともに、それに相応しい教科書を子供達に届けるため、これまで教科書改善に取り組んでこられた方々の志を受け継ぎ、あらたに幅広い教育関係者の皆様の賛同を得て、「改正教育基本法に基づく教科書改善を進める有識者の会」を結成しました。

   私たちの目的は、改正教育基本法の理念に沿った教科書の作成ならびにその普及を側面から支援し、不毛な戦後イデオロギーから子供たちを解き放ち、我が国に古くから伝わってきた清らかで明るく躍動感に満ちた希望の光を、子供たちの心にともすことです。


  ここでは、教育基本法の改正によって、愛国心や公共の精神を教育できるようになる期待が明確に述べられている。ところが、今回、育鵬社は、改善の会の期待を見事に裏切ったのである。その意味では、改善の会は、育鵬社の公民教科書を支援しないと表明すべきだったのではないか。 

   以上①②の点から分かるように、育鵬社の教科書は保守の教科書とは到底言えない。育鵬社は、他の5社と同じく、共同社会解体の思想を表明したからである。

  更にいえば、保守と言われる教科書さえも愛国心を展開しなかったわけだから、自虐5社は、後2回ぐらいは絶対に愛国心を書かないことになるだろう。この愛国心の例に見られるように、育鵬社が低レベルの教科書をつくれば、教科書改善の目標ラインを著しく低下させることになるのである。まだ自由社が伸びていれば少しは違うが、育鵬社が自由社に圧勝したわけだから、今後は育鵬社が「保守」の代表となる。とすれば、自虐5社にとっては、育鵬社以上に保守派的な記述は絶対に要請されないわけである。その意味でも、育鵬社の低レベル公民教科書の採択の伸びは、歴史教科書の場合とは異なり、よいこととは言えないのである。

③「日本国憲法」三原則、平等権

   「日本国憲法」は、本来、自由主義的な「憲法」である。ところが、公民教科書が「日本国憲法」三原則を広げ、平等権という逆差別思想を広げてきた。そして、その後を追いかけて、憲法学説でも三原則説と平等権が広がってきた。二つとも、法学における左翼思想の表現と言える。この左翼理論を、育鵬社の教科書は採用しているのだ。しかも、左翼教科書と同じく、差別問題に5頁も割いているのだ。これは、扶桑社版との一番の違いかもしれない。

   それゆえ、育鵬社公民教科書とは、左翼理論の教科書であるといえる。ただ、領土問題や拉致問題などの評価すべき記述からすれば、比較的愛国的・独立派的な左翼の教科書と位置づけられるのだろう。実は、国家論さえもきちんと展開できない点に注目すれば、このようにいうのも、かなりほめすぎと言えよう(特に、国内政治のところで国家論を展開していない点が問題である)。




(2)育鵬社教科書の問題点は、どこから生まれるか

  では、なにゆえに、育鵬社は、このように問題の多い低レベルの、評価できない公民教科書を作ってしまったのか。そしてまた、一応評価できるとはいえ、ルビ問題等を抱えた歴史教科書を何故に作ってしまったのか。その背景には、何があるのであろうか。この点に関しては、前々回とその前の二つの記事、特に「教科書改善の会を反面教師として」で述べたとおりの事があてはまる。

  この記事で述べたとおり、教科書改善の会は、以下のような特徴を設立以来持っていた。その特質からして、ある意味当然に問題の多い教科書を作ってしまったと言えよう。

①思想的不誠実さ
②権力へのすり寄り、「世論」へのすりより
③「左右のイデオロギーから自由な立場」→左翼と戦わない
④編集者主体の体制→思想よりも、採択・営業を重視する


  一言でいえば、思想よりも営業を重視する、ということで尽きていると言える。
 思想よりも営業を重視するからこそ、思想的に不誠実になり、権力や「世論」にすり寄ることになるし、「つくる会」の後ろに隠れて左翼と戦わないことになる。

  また、「弱者」という名の強者にすり寄るし、民主党政権という対中韓隷属政権ができれば、中韓隷属を進めるような記述を行うことになる。つまり、中国語読み・韓国語読みのルビを振り、「南京事件」を最初から認め、日本風に創氏改名することを日本が強制したと最初から記すようになるのだ。

  ただし、私には、育鵬社が愛国心などを育成する教育を放棄した理由が分からない。自由社の公民教科書では愛国心などを記したが、教科書調査官は何の意見も付けなかったし、愛国心などを書くのは当然である、少なくとも文句を付けようがないという態度であった。この問題に関しては、明らかに教科書調査官の方が、育鵬社の執筆者たちよりもまともだと言えよう。 

  改めて、何故、愛国心などを書かなかったのか。私にはしかと分からない。愛国心を嫌う、左翼の多い中学校教師に気に入られるためであろうか。あるいは、教育委員に気に入られるためであろうか。あるいは、民主党政権に代わったから、愛国心を嫌うだろう権力者に気に入られるためであろうか。これらの人々に気に入られることによって採択をのばそうとしたためであろうか。

  だが、いずれの仮説も、私にはしっくりこない。もちろん、ある程度はこれらの仮説があてはまるだろうが、やはり本当にはしっくりこない。今書いている中で初めて心に浮かんできたことだが、結局、公民教科書を書いた執筆者たちが、保守であるという自己意識を仮に持っていたとしても、思想的に左翼であるからであろう。世の中には、左翼思想にどっぷり浸って居ながら、自分を保守と勘違いしている人が数多い。育鵬社の執筆者たちも、そうなのだろう。戦後60年間、特に昭和30年以降、左翼あるいはサヨクを育てるための公民教育が行われてきたわけだから、余りにも当然のことではあるが。

   それゆえ、5点目の理由として、以下の事を挙げておかなければならない。
⑤実は、執筆者が左翼思想の持ち主である。あるいは左翼思想をほとんど克服できていない

   是非とも、改善の会には、上記5点の否定的な特徴を克服してほしいと願う。まず、④から手を付けるべきである。恐らくは、愛国心などを展開しなかったのは、左翼の攻撃を恐れた編集者サイドが教科書作成を仕切ったからであろう。

  ⑤については、随分きついことを言うと思われるかもしれない。だが、前述のように、この数年間強く思うのは、自己を保守と思っている人が、全くの左翼理論を信仰しているという現実についてだ。戦後の日本人は、否応なく、非日・反日的な教育を受け、国家論を教わらずに大人になった。更に、最近30年間は家族軽視の教育を受けて大人になった。要するに、戦後の公民教育とは、国家解体をもたらす左翼を一生懸命に育て上げるものだったのである。

  それゆえ、自民党にも、保守運動を担う人の中にも、左翼理論が著しく浸透している。それは、自民党の改憲案が「日本国憲法」三原則を著しく信奉するものだったことに最も端的に現れている。

   左翼と思想的に戦い、現在の保守言論界の言説も疑う中で、保守思想とは何か見つけていかない限り、まともな保守の教科書は生まれないと言ってよいだろう。こういう仕事は、編集者や現場の先生ではなく、保守言論界第一線の人たちが、逃げずに行なうべきことである。その意味では、例えば八木秀次氏が代表執筆者を務めるべきであったし、代表執筆者として全体構成から細かい点まで仕切るべきだったと思われる。もちろん、氏がそうしたとしても結果は同じだった可能性が高いけれども、愛国心などの記述ぐらいは行われたのではないだろうか。


  2011/06/07 11:42
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2011/08/24 14:38
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http://tamatsunemi.at.webry.info/201108/article_56.html


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