八木秀次論文を読んで――安倍・育鵬社グループは何故に『新しい歴史教科書』を潰しに来たのか

 このところ、首と頭が辛くて横になってばかりいた。体調の悪さとともに鬱にも悩まされている。政治状況が淡々と日本解体に向けて歩んでいるように思われるからだ。だいたい、例年、9月初旬ないし中旬は季節の移り変わりのため体調が悪くなるが、今年は夏の終わりが遅れたため、下旬になって悪くなったようだ。

だが、いつまでも横になっているわけもいかない。また公民教科書関係の仕事が詰まってきている。そちらにシフトしなければならない。これ以上遅れると、支障をきたしそうである。そこで、区切りをつけるため、雑感を記すことにする。

安倍政権の日本破壊政策は継続する

10日ほど前、日本歴史上とまでいえるかわからないが、少なくとも戦後史上最も日本を破壊した第二次安倍政権が終了し、安倍政権を継承すると言われる菅政権が誕生した。

安倍政権で評価できることは、なんとなく日本の国際的地位を上げたかのようにふるまったこと、中国を意識して「インド太平洋」戦略を提唱し、アメリカやオーストラリアなどを巻き込んだことぐらいであろう。安倍氏は外交で成果を挙げたといわれるが、北方領土問題では著しく日本の立場を悪化させてしまった。また、自分が言い出した「インド太平洋」戦略に反して、中国に随分接近する失敗も犯している。

安倍政権の内政に関しては、全く評価できることがない。移民政策やヘイト法、アイヌ新法、水道民営化その他、グローバリズムと共産主義に日本を売り渡していく「日本解体政策」を安倍政権は行ってきた。これらの政策は安倍政権でなくても行われたのであろうが、他の政治家が行った場合には、所謂保守派はきちんと反対運動を行っただろうから、安倍氏のようにスムーズに効率的に「日本解体政策」を推し進めることはできなかったであろう。

安倍政権が上記のような「日本解体政策」を推し進めても、所謂保守派は沈黙を貫いたり部分的に賛成したりしてきた。その結果、所謂保守派の体力の低下、思想上の劣化はとどまるところを知らぬことになった。そして保守派の矜持を守らんとする人たちは、戦後レジームを打破せんとする人たちは、ヘイト法によって弾圧され続けてきた。「保守の希望の星」と言われた安倍政権の下でこそ、保守派は隅っこに追いやられるか、左翼とともに戦後レジーム完成の協力者になっていったのである。所謂保守派のほとんどは、第二グローバリスト又は第二左翼になり果ててしまっている。所謂保守派の思想を集約した育鵬社の公民教科書を見れば、グローバリズム、多文化共生、ヘイト法万歳が書かれているから、このような位置づけは間違ってはいないだろう。

いや、所謂保守派は9条2項護持論でもって憲法改正なるものを説いているから、第二「九条の会」になり果てていると言うべきかもしれない。

そして今、数々の「日本売り政策」「日本解体」政策を実際に取り仕切ったと言われる菅義偉氏が首相になったわけだから、更に日本をグローバリストに売り渡していく政策が採られ続けていくだろう。日本のGDPは減少し、防災費や軍事費を増やそうにも増やしようがなくなる事態となろう。どう考えても、消費税減税に財政拡大政策をとる必要があろう。普段なら「自助、共助、公助」でよいだろうが、この非常時に菅政権のように「自助、共助、公助」のスローガンを出すなど、とんでもないことである。弱者いじめを貫くつもりであろうか。

自虐史観全盛の時代に逆戻りするだろう

特に、私の関心からして最も危惧するのは、歴史認識及び国家観の領域に関して、壊滅的な事態が生ずるかもしれないということだ。今回、安倍-育鵬社グループは、文科省及び左翼と組み、『新しい歴史教科書』及び「つくる会」を潰しに来た。今も、特に雑誌『正論』に代表される育鵬社系言論機関が潰しに来ている。『新しい歴史教科書』がつぶれれば、歴史戦の強力な思想的根拠地が無くなるし、歴史認識及び国家観の領域に関して、20年前の自虐史観全盛の時代に逆戻りすることになろう。

歴史認識・国家論の領域が一番根底にある

実は、国家が繁栄するか衰退するかという問題は、究極には歴史認識及び国家観の領域のあり方にかかっている。人は、国家の存続・繁栄は経済力にかかっていると言い、あるいは軍事力にかかっていると言う。あるいは科学技術力に掛かっていると言う。

これらの説はすべて間違いではないが、最も重要なのは歴史認識及び国家観の領域である。いかに経済力があっても、自虐史観に陥った日本国家は、経済力を無駄遣いして中国に多大な援助を行い、その中国から侵略される危険性を自ら作り出してしまった。いかに純粋な軍事力としては世界有数の自衛隊を持っていても、自虐史観に陥り正しい国家論を身に付けていない日本国家は、戦力と交戦権を放棄したものとして9条の解釈を行ってきた。それゆえ、専守防衛戦略しか取れず、基本的に自衛隊を軍隊ではなく警察としてしか使えず、「戦争になれば逃げだす」という国民を多数生み出してきた。このありさまでは、中国に侵略されても抵抗さえできなかったり、米中に半分ずつ占領されたり、米中韓ロの四か国に分割占領されたり、等々といったみじめな事態も十分に考えられよう。

 これに対して、自らの歴史に誇りを持ち、国家の役割・目的をきちんと理解している国家は繁栄する。そして、自虐史観から抜け出れば、日本だけが戦力と交戦権を否定されるいわれがないと言うことになるし、正しい国家論を身に付ければ、少々自虐史観に陥っていても、国家の第一の役割は防衛だから戦力と交戦権は保持しなければならないということになろう。

 つまり、歴史認識及び国家観の領域が最も重要なのである。それゆえ、歴史認識及び国家観の再建に最も力を発揮してきた「つくる会」及び『新しい歴史教科書』がつぶれれば、日本の生き残りは極めて困難となると私には思われるのである。

八木秀次「戦略的防衛強化と戦後史観払拭」--歴史認識問題は過去のものとなった

 というようなことを最近考えるようになったが、そんな折、八木秀次氏の「戦略的防衛強化と戦後史観払拭」(正論2020/9/10)という論考を読んだ。これを読んで、何ゆえに、安倍政権が『新しい歴史教科書』を潰しに来たか、育鵬社系言論機関が文科省の不正検定を何故に執拗に擁護し、「つくる会」を攻撃するのか、よくわかった。八木氏は、この論考の中で、2013年3月における故・岡崎久彦氏の考えをまず引用する。

岡崎氏は「日本の保守主義には大きく分けて2つの課題がある」とし、1つは「戦後史観の払拭」、もう1つは「防衛費の増額、集団的自衛権の行使容認など、防衛、安保問題における戦後レジームの脱却」であるとして、2つを同時に解決しようとしたり、優先順位を間違えてはならず、後者を優先すべきだと述べている。前者を優先すれば、米国を警戒させ、後者もできなくなるというのが理由だ。岡崎氏の分析は直接、安倍首相に伝えられ、首相はその通りに進めていたようだ。

 八木氏によれば、故・岡崎氏は、安保防衛問題が歴史認識問題よりも重要であり、先に片付けなければならないと述べていたし、安倍氏は岡崎氏の言うとおりの方針をとっていたという。そして、八木氏自身もこの岡崎氏の立場に賛成であるとする。私にすれば歴史認識・国家観の問題こそ根底的な問題と思うが、岡崎氏や八木氏は安保防衛問題の方が重要であるという。

 そればかりか、八木氏は、2015年の安保法制にふれたうえで、「岡崎氏のいう第2の課題はほぼ実現された」と位置づける。なんと、「第2の課題」すなわち「安保問題における戦後レジームの脱却」がほぼ達成されたというのである。そして、次のように安倍談話を評価して、第1の課題すなわち「戦後史観の払拭」という課題も、安倍政権は達成したという。八木氏は次のように安倍談話について述べている。

何より談話は「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」とも述べた。一部の国との関係を除き、歴史認識問題は過去のものとなった。岡崎氏のいう第1の課題「戦後史観の払拭」は、一部に批判もあろうが、巧みに国際社会の理解を得ながら達成されていった

 八木氏によれば、安倍政権は二つの課題を、少なくとも基本的に達成してしまったようだ。とんでもなく誤った認識だが、このようにとりあえず位置づけるものだからこそ、9条②項削除にそれほどこだわらなくてもよいし、これ以上の歴史教科書改善は不要だということになったのであろう。

所謂保守派が第二「9条の会」に劣化した理由が一つわかった

 思い出すならば、安倍晋三氏が9条②項護持の改憲案を提案したときに保守派のほとんどが賛成したことに、少なくともほとんど反対しなかったことに本当に驚いた。だが、八木氏のこの論考を読んで、所謂保守派が反対しなかった理由が分かった気がした。八木氏らによる誤った現状認識こそが、誤った現状認識への誤ったリードこそが、一つの理由だったのであろう。単に、保守派一般が忖度病にかかっていること、意気地なしであるということだけではなかったことに気付いた次第である。

『新しい歴史教科書』に対する不正検定の理由も分かった

 また、八木氏の論考を読んで、『新しい歴史教科書』を安倍・育鵬社グループが潰しに来た理由も分かった気がする。彼らによれば、少なくとも育鵬社系の中心に位置する八木氏によれば、安倍談話を出したことにより、歴史認識問題の解決は達成したわけである。であれば、もうこれ以上、教科書改善運動を前進させることはないわけだから、改訂ごとに正しい史実を記し、南京事件とは異なり本当にあった通州事件を記すに至った『新しい歴史教科書』は、インバウンドのお客様である中国の機嫌をとるためにも邪魔な存在だったわけである。また、2015年の安倍談話で約束していた慰安婦問題に関する反省を世界に示すためにも、『新しい歴史教科書』は邪魔な存在だったわけである。安倍談話は慰安婦問題に関連して次のように述べていた。
  *安倍談話については、拙著『安倍談話と歴史・公民教科書』自由社、2016年、参照

 私たちは、二十世紀において、戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉が深く傷つけられた過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、そうした女性たちの心に、常に寄り添う国でありたい。二十一世紀こそ、女性の人権が傷つけられることのない世紀とするため、世界をリードしてまいります。

 これを読み直していただきたい。世界をリードしますと宣言した延長上に、同年12月の日韓合意があり、今回の山川出版の従軍慰安婦の記述があり、『新しい歴史教科書』に対する不正検定があったわけである。

 ましてや、八木氏らによれば、歴史認識問題は、安保問題よりも軽い問題である。そんな軽い問題に精力を使う必要はないではないかというのが、八木氏の考え方であり、また恐らくは安倍氏の考え方なのであろう。前回、育鵬社系の人たちは、教科書問題にやる気がないと記したが、その背景には、岡崎氏や八木氏のような考え方が存在したのである。

 しかし、もう一度言うが、歴史認識及び国家観の問題が一番重要である。今西欧諸国が西欧でなくなりつつあり、滅亡するだろうとも予想されるのは西欧流の自虐史観と国家論の喪失ゆえである。歴史認識を正すこと、まともで普遍的な国家観を取り戻しながら自主防衛体制を築くことこそが、「戦後レジーム」脱却の王道である。

補記---「戦後史観の払拭」という課題を達成したとする八木氏  
上記のように、八木氏は、2015年に日本は「防衛、安保問題における戦後レジームの脱却」という課題も達成し、「戦後史観の払拭」という課題も達成したとし、「歴史認識問題は過去のものとなった」と述べている。本当にびっくりした。未だに、日本には軍隊が存在せず、尖閣防衛もままならないのに防衛問題に関して戦後レジームから脱却したと言うとは驚きである。また、ほとんどの歴史教科書において「南京事件」が教えられ、朝鮮人強制連行説的な記述が行われれているというのに、歴史認識問題の解決も達成したというとは、とんでもない嘘をつき、とんでもなく誤った現状認識を行っているものだ。この出鱈目極まりない認識こそが、所謂保守派を壊滅させ、日本を解体していく根源にあるものであろう。 2020年9月29日記
 

  転載自由


ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

藤岡信勝
2020年10月01日 07:39
全くの正論です。保守系言論は崩壊しています。