育鵬社は何ゆえに惨敗したのか

 育鵬社歴史・公民教科書の惨敗

 令和3年度使用の歴史・公民教科書の採択結果がおおよそ判明した。『新しい歴史教科書』が不正検定によって排除された結果、育鵬社の採択状況に注目が集まった。特に、今年度において育鵬社を採択している地区での採択に注目が集まった。

 8月上旬には横浜市などの神奈川県で、育鵬社の教科書が不採択となった。下旬には大阪市や東大阪市などの大阪府で不採択となった。9月に入り、石川県で現状維持となったが、採択部数で圧倒的な比重を占める横浜市と大阪市を失ったことで、育鵬社の採択部数は4分の1以下になったことは確実である。大惨敗である。

 今回の結果は、私にはショックであった。一番深刻に受け止めたのは藤岡氏だろう。氏は、2011年に沖縄県八重山地区が育鵬社公民教科書を採択したときに色々攻撃を受けたときに最も熱心に論陣をはり、育鵬社公民教科書を擁護した経緯がある。このとき、育鵬社系の言論人がほとんど動かなかったのに、藤岡氏が八面六臂の活躍をしたことを思い出す。

 「つくる会」の中で最も反育鵬社の言論を行ってきた私にとっても、藤岡氏ほどではないが、大ショックであった。日本を独立国にするためには、所謂保守系の歴史・公民教科書を通じて歴史認識と国家意識を転換して日本国民の精神的自立を達成することが一番重要なことだからである。そのことが、育鵬社系の知識人・政治家は分かっておられないようである。
 
 育鵬社惨敗の第一原因は『新しい歴史教科書』の検定不合格

 前置きはこれくらいにして、掲題のことについて記していきたい。掲題を繰り返すが、育鵬社は何ゆえに惨敗したのか。

 ➀弾除け、風除けが無くなった

  間違いなく、『新しい歴史教科書』を不正検定で不合格にしたからである。このことによって、採択戦において圧倒的に重要な歴史教科書をめぐって、育鵬社が一番「右」よりの教科書になってしまった。これまで二回の採択戦において、育鵬社は「我々の教科書は自由社のような右翼の教科書ではありません」と言い訳をしながら採択率を上げていった。自由社を弾除け、風除けに使うことによって採択数を伸ばしてきたのである。極めて姑息であり、左翼との関係では位負けした戦法だが、一定の成果を挙げてきたわけである。

ところが、その弾除け、風除けが無くなってしまった。共産党を中心とした左翼の攻撃対象は育鵬社一社に絞られることになった。この攻撃に、育鵬社は、そして教育委員会などの採択関係者は、耐えられなかったのである。

⓶「つくる会」による結果的な「応援」が無くなった

 しかし、弾除け、風除けが無くなったということよりも、大きいのは「つくる会」が不正検定糾弾に8割以上の精力をそがれてしまい、採択運動をほとんどできなかったことが大きい。『新しい歴史教科書』が検定合格していた前二回においては、「つくる会」は自由社採択を第一に掲げてきたが、特に各地区では、自由社が全然望みのないときには結果的に育鵬社でもよいという空気があった。しかし、育鵬社側にはそういう感覚は全くなかった。

それゆえ、「つくる会」関係者が一方的に育鵬社の採択を支えていたというケースがかなりあった。逆は一つもなかった。皮肉なことに、「つくる会」の熱心な採択運動が自由社に関しては95%以上成果をもたらさず、育鵬社に関しては一定の成果をもたらしてきたのである。いわば、結果的には「つくる会」による一種の「応援」が育鵬社の採択率を支えていたのである。

 ところが、育鵬社が採択を勝ち取ってきた背景を、育鵬社は全く読めていなかったのであろう。だから、保守系教科書としてはライバルである自由社をつぶせば、その分自分たちの有利になると考えたのであろう。

 第二原因は育鵬社自身のやる気のなさ

では、なぜ、彼らは、背景を読めなかったのか。 結局は、教科書問題に対して彼らは本気でなかったのではないか。そもそも、育鵬社の運動は、「教科書なんか興味がない」人が中心に位置している。とはいえ、公民教科書に関しては、育鵬社系の人たちにも自前で作れる人はいた。だから、自分たちが扶桑社版『新しい公民教科書』の著作権を持っていたから、その修正で作ってもよかったのに、一から新しく作った。

これに対して、歴史教科書に関しては、自前で作れる人がいなかった。だから、育鵬社の人たちは、扶桑社版歴史教科書の著作権を自分たちが持っていないのに、著作権者である藤岡氏らの許可をとらずに、扶桑社版をリライトして作ることしかできなかったわけである。そして、2010(平成22)年に検定申請して2011年に検定合格した。とんでもない不当な行為だが、別の見方をすれば、彼らは教科書問題に関して大して興味がなくやる気もないからこそ、多くのデッドコピーさえ行って歴史教科書を作ったのであった。

また、彼らのやる気のなさは、平成29(2017)年の指導要領改訂時における聖徳太子抹殺運動に反対しなかったことにも現れている。

抽象的な言い方だが、やる気がないからこそ、教科書改善運動の現状把握もできず、これまで育鵬社が採択されてきた事情の分析把握もできなかったのであろう。やる気がないからこそ、教科書をめぐる情勢を読めず、惨敗するしかなかったわけである。

「保守」的なものを生贄にしながら生き延びてきた安倍政権

教科書における育鵬社の惨敗は、安倍政権の惨敗でもある。そう考えるのが一般的であろうが、ひょっとしたら、安倍政権としては、育鵬社が惨敗してもよいから、その時は育鵬社も切り捨てるだけだと考えて、「つくる会」及び『新しい歴史教科書』を潰しに来たのもかもしれない。

  しかし、ともかく採択戦までは、育鵬社も安倍政権も一体のものとして考えて間違いはなかろう。では、なにゆえに、安倍-育鵬社グループは、「つくる会」をつぶそうとしたのか、安倍政権に焦点を当てて考えていこう。

最初に次世代の党を生贄に差し出した
 さて、安倍政権の生き方を振り返ると、「日本」なるもの、「保守」的なものの「生首」をグローバリズムと共産主義との連合勢力に一つずつ差し出すことによって生き延びてきた政権である。日本の国家体制としては、他の人が首相であっても、自虐史観が生きていて自衛戦力と交戦権が否定されたままの状態が続けば同じ生き方しかできないと思われる。だが、他の人が首相であれば、「日本売り」政策に対する所謂保守派からの反対運動が起きていただろうし、その結果、すんなりと「日本売り」政策を遂行することができなかったと考えられる。ところが、安倍政権は「本格的な保守政権」であるとの幻想を持たれ続けたために、静かに効率的に「日本売り」をし続けることができたのだ。

 最近、思うのは、グローバリズムと共産主義との連合勢力が狙うものは「未完の占領改革」を完了することであり、何よりも「未完の東京裁判」をやり抜くことである、ということである。愛知トリエンナーレで昭和天皇の写真が燃やされた映像が芸術だとして出品されたということを聞いたとき、彼らは「未完の東京裁判」をやりたいのだと思った。そもそも東京裁判は違法裁判であり、その裁判を完遂しようと考えるなど、法を順守する立場、日本人の立場からすれば本当におかしな話である。

 ともあれ、安倍政権は、〈グローバリズムと共産主義との連合勢力〉(別の言い方が良いのかもしれないが)に対して、一つずつスケープゴートを差し出してきた。最初に差し出したのが次世代の党である。2014年12月の総選挙で次世代の党を葬り去り、多くの「日本国憲法」無効論者と歴史戦で国会において活躍できる人材を葬った。

次にヘイト法で日本人を被差別民族化した

  その後、目に見えて安倍政権の政策は劣化していく。そして2015年には安倍談話と日韓合意が出され、2016年にはヘイト法がつくられ、日本人から外国人に対するヘイトスピーチを許されないものとし、外国人から日本人に対するヘイトスピ―チを野放しにした。こういう人種差別法案、日本人差別法案を、自民党自ら作ったのである。しかも、育鵬社系の知識人だけでなく、多くの保守系多識人はこのヘイト法を黙認し、何の批判も加えなかったのである。

  ヘイト法は、価値観的には、日本人全体を日本国における下層民として位置付けることになった。観念的に言えば、日本は正式に下層国になりますという表明を行ったことになるのである。これで、長期的には日本の滅びは決定したと私は感じている。

所謂保守団体は「ヘイト団体だ」と脅され、主張が左傾化していく

  以後、日本の所謂保守団体は潜在的に「ヘイト団体」と見されることになり、目立って民間の保守系団体の活動力が落ちていく。あるいは、主張がおかしなものになっていく。

安倍改憲案に付き従う保守系団体・言論人――独立国にはなりません

 2017年に出された9条➀②項を温存する安倍改憲案(日本永久属国化案)が出されると、この改憲案を熱心に(一部疑問を感じながらも)拡散する保守系団体、熱心に主張する保守系言論人が増えていく。ご自分の頭で考えようとしない言論人が増えていく。彼らも、ヘイト法の精神と同じく、日本は独立国にはなりませんという意思表明をしていたのである。

 こうして保守系団体の多数派、保守系言論人の多数派から独立国を目指す精神を奪い取りながら、そのことによって、安倍政権は前述のグローバリズムと共産主義との連合勢力の御機嫌を取りながら、生き延びてきた。

「つくる会」を「未完の占領改革」勢力に差し出した安倍政権

 しかし、連合勢力が一番欲しかったのは、「従軍慰安婦問題」の中学校教科書での復活であり、「つくる会」の抹殺であった。「つくる会」は歴史戦の中心的な担い手であるし、「従軍慰安婦問題」の教科書からの追放を主導してきた団体だからである。そこで、安倍政権は、グローバリズムと共産主義との連合勢力に対して、「未完の占領改革」を行おうとする勢力に対して、「つくる会」の「生首」をスケープゴートとして差し出す代わりに自分たちを許してもらおうという作戦を立て、実行した。だからこそ、今回の検定では、自由社に対しては不当に厳しい検定が行われ、育鵬社と学び舎に対しては驚くほど異様に甘い検定が行われることになった。そのことについては、本ブログの11回の連載記事〈不正検定問題〉で検証しているので参照されたい。

 ともあれ、育鵬社は、今回の作戦で「つくる会」を潰して採択数を伸ばせると考えた。ところが、育鵬社は採択戦でも惨敗した。グローバリズムと共産主義との連合勢力は、安倍-育鵬社グループを許してくれなかったのである。

 しかし、それにしても、安倍-育鵬社グループは、なにゆえにこのように愚かなことを行ったのであろうか。私には、安倍政権も育鵬社系の人たちも、結局は、〈今だけ、金だけ、自分だけ〉という精神構造になってしまっているからではないかと思われるのである。〈金だけ〉の面はもう一つわからないが、〈今だけ〉〈自分だけ〉というのは確かなことであろう。

参考文献 小山常実他『「ヘイトスピーチ法」は日本人差別の悪法だ』自由社、2016年


 なお、以下の藤岡信勝氏の論考も一読されたい。

保守系教科書を絶滅させた安倍政権の重大な犯罪的行為 藤岡 ...

https://www.yamatopress.com/archives/34646


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