不正検定問題検討6――日英同盟解消問題を調査官の要求通りに書いた教科書はゼロだった
6回目は、完全にダブルスタンダードの事例である。今回は、『教科書抹殺』の中の事例44、欠陥箇所360番の件である。
『新しい歴史教科書』は、第5章「二つの世界大戦と日本」の最後の方の253頁に、〈時代の特徴を考えるページ 近代後半(大正・昭和前半)とはどんな時代だったのか〉という、アクティブ・ラーニングのコラムを設定している。このコラムの一角に【課題②について書いたさくらさんの ノート】が置かれ、「③ワシントン会議でアメリカは日英同盟の破棄に動いた」と記されていた。教科書調査官は、この表現のうち「破棄」を問題視し、「不正確である」と指摘し、欠陥箇所と認定した。
果たして不正確かどうかの問題を見る前に、指摘しておかなければならないのは、ここはアクティブ・ラーニングの頁であり、「破棄」という言葉は、あくまで学習者である「さくらさん」のノートに記されたものだということである。それゆえ、まずは、学習者のノートだから多少アバウトな表現でも構わないのでないかと指摘することができる。
さくらさんのノートの記述は正確である
次に、さくらさんのノートの記述は不正確なものかどうか検討しよう。「ワシントン会議でアメリカは日英同盟の破棄に動いた」というさくらさんの文章は、アメリカの狙い、アメリカの思いに焦点を合わせたものである。アメリカの思いとしては、まさしく日英同盟の破棄を狙っていたといえるから、さくらさんの文章に問題はない、この文章は正確であると言うことができよう。
「破棄ではなく、無効になった」と書けという調査官
しかし、調査官は「不正確である」という判断をした。なぜなのか。自由社の編集者や執筆者は、2019年12月25日、文科省で検定不合格を通告されているが、そのとき教科書調査官と議論している。その時の議論を、『教科書抹殺』は、次のように描いている。
われわれは、形式的には、第三次日英同盟が更新されなかったので、1923年8月に無効になったのであるが、そうした表面上のことだけを書いたのでは、アメリカの圧力で解消に追い込まれたという歴史上重要な事実が伝わらないので、教科書のような表現にしたと説明した。しかし教科書調査官は、あくまでも、無効になった事実を正確に描くべきだとして譲らなかった。 170~171頁
無効になったと書く教科書は存在しない
そこで、私は、他社の記述を調べてみた。何と、調査官が求めるように無効になった事実を書いている教科書は一つもなかった。教科書の記述を分類してみると、三タイプ存在する。
■第一のタイプ
日英同盟解消について書いていないもの……学び舎201頁
■第二のタイプ
解消と記すもの……東書、教出、育鵬社、山川出版の四社
・東書213頁……この会議で日英同盟は解消されました。
・教出217頁……この結果、日英同盟は解消され
・育鵬社228頁……日露協約の消滅と日英同盟の解消によって、わが国は外交的孤立を深めることとなりました。
・山川出版219頁……側注➀日英同盟もこのとき解消された。
■第三のタイプ
廃棄や廃止と記すもの……日本文教出版と帝国書院の二社
・日本文教出版229頁……会議では、日英同盟の廃止や、中国の主権と領土を尊重することが決められ
・帝国書院217頁……他方で、日本外交の中心であった日英同盟は廃棄されました。
昨年12月25日の教科書調査官の発言からすれば、「無効になった」と書いていないから、第二、第三のタイプには当然に意見を付けるべきものであろう。しかし、どの教科書にも意見は付いていないのである。もっとも、第二のタイプの「解消」という表現は従来の標準的な言い方であり、「無効になった」という表現とそれほど対立しないのかもしれない。
廃棄や廃止と破棄との差とは何なのか
これに対して、第三のタイプに目を移すと、日本文教出版は「日英同盟の廃止」といい、帝国書院は「日英同盟は廃棄されました」としている。「廃止」や「廃棄」という表現は、自由社の「日英同盟の破棄」という表現と、一体とれほど違うのであろうか。
それゆえ、自由社に対して「破棄されていない、不正確である」と指摘するならば、同様に、日本文教出版に対しては「廃止されていない、不正確である」との、帝国書院に対しては「廃棄されていない、不正確である」との検定意見を付けるべきではないか。
ここでも、文科省は、少なくとも日本文教出版と帝国書院を優遇し、自由社を差別したのである。かかるダブルスタンダードは到底許されないと述べて、第6回報告を終えることとする。
転載自由
『新しい歴史教科書』は、第5章「二つの世界大戦と日本」の最後の方の253頁に、〈時代の特徴を考えるページ 近代後半(大正・昭和前半)とはどんな時代だったのか〉という、アクティブ・ラーニングのコラムを設定している。このコラムの一角に【課題②について書いたさくらさんの ノート】が置かれ、「③ワシントン会議でアメリカは日英同盟の破棄に動いた」と記されていた。教科書調査官は、この表現のうち「破棄」を問題視し、「不正確である」と指摘し、欠陥箇所と認定した。
果たして不正確かどうかの問題を見る前に、指摘しておかなければならないのは、ここはアクティブ・ラーニングの頁であり、「破棄」という言葉は、あくまで学習者である「さくらさん」のノートに記されたものだということである。それゆえ、まずは、学習者のノートだから多少アバウトな表現でも構わないのでないかと指摘することができる。
さくらさんのノートの記述は正確である
次に、さくらさんのノートの記述は不正確なものかどうか検討しよう。「ワシントン会議でアメリカは日英同盟の破棄に動いた」というさくらさんの文章は、アメリカの狙い、アメリカの思いに焦点を合わせたものである。アメリカの思いとしては、まさしく日英同盟の破棄を狙っていたといえるから、さくらさんの文章に問題はない、この文章は正確であると言うことができよう。
「破棄ではなく、無効になった」と書けという調査官
しかし、調査官は「不正確である」という判断をした。なぜなのか。自由社の編集者や執筆者は、2019年12月25日、文科省で検定不合格を通告されているが、そのとき教科書調査官と議論している。その時の議論を、『教科書抹殺』は、次のように描いている。
われわれは、形式的には、第三次日英同盟が更新されなかったので、1923年8月に無効になったのであるが、そうした表面上のことだけを書いたのでは、アメリカの圧力で解消に追い込まれたという歴史上重要な事実が伝わらないので、教科書のような表現にしたと説明した。しかし教科書調査官は、あくまでも、無効になった事実を正確に描くべきだとして譲らなかった。 170~171頁
無効になったと書く教科書は存在しない
そこで、私は、他社の記述を調べてみた。何と、調査官が求めるように無効になった事実を書いている教科書は一つもなかった。教科書の記述を分類してみると、三タイプ存在する。
■第一のタイプ
日英同盟解消について書いていないもの……学び舎201頁
■第二のタイプ
解消と記すもの……東書、教出、育鵬社、山川出版の四社
・東書213頁……この会議で日英同盟は解消されました。
・教出217頁……この結果、日英同盟は解消され
・育鵬社228頁……日露協約の消滅と日英同盟の解消によって、わが国は外交的孤立を深めることとなりました。
・山川出版219頁……側注➀日英同盟もこのとき解消された。
■第三のタイプ
廃棄や廃止と記すもの……日本文教出版と帝国書院の二社
・日本文教出版229頁……会議では、日英同盟の廃止や、中国の主権と領土を尊重することが決められ
・帝国書院217頁……他方で、日本外交の中心であった日英同盟は廃棄されました。
昨年12月25日の教科書調査官の発言からすれば、「無効になった」と書いていないから、第二、第三のタイプには当然に意見を付けるべきものであろう。しかし、どの教科書にも意見は付いていないのである。もっとも、第二のタイプの「解消」という表現は従来の標準的な言い方であり、「無効になった」という表現とそれほど対立しないのかもしれない。
廃棄や廃止と破棄との差とは何なのか
これに対して、第三のタイプに目を移すと、日本文教出版は「日英同盟の廃止」といい、帝国書院は「日英同盟は廃棄されました」としている。「廃止」や「廃棄」という表現は、自由社の「日英同盟の破棄」という表現と、一体とれほど違うのであろうか。
それゆえ、自由社に対して「破棄されていない、不正確である」と指摘するならば、同様に、日本文教出版に対しては「廃止されていない、不正確である」との、帝国書院に対しては「廃棄されていない、不正確である」との検定意見を付けるべきではないか。
ここでも、文科省は、少なくとも日本文教出版と帝国書院を優遇し、自由社を差別したのである。かかるダブルスタンダードは到底許されないと述べて、第6回報告を終えることとする。
転載自由
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