『新しい公民教科書』の描く米中新冷戦――「米中戦争」の状況を前にして

『新しい公民教科書』は「米中新冷戦」を描いた

 5月以来、基本的に体を休めながら、『新しい公民教科書』のことを考え続けてきた。また、6月7月とのんびりと他社教科書を検討した。そして6月末以来、何度か『新しい公民教科書』について話をさせていただく機会があった。特に7月26日には、戦後レジームとの関連で『新しい公民教科書』についてまとまった話をすることができた。この日は、豪雨で新幹線が大幅に遅れ、2時間半も遅刻したにもかかわらず、一時間強も講演させていただいた。非常にありがたかった。主催者と聴衆の方にお礼を申し上げたい。

この講演を通じて、改めて思ったことが何点かある。それについて記していきたいと思う。今回は掲題の事柄について記したいと思う。
掲題のように、現在の世界情勢は非常にきな臭いものになってきている。7月22日には、アメリカ政府は、テキサス州ヒューストンの中国総領事館に閉鎖命令を出し、24日には命令通り閉鎖された。23日にはポンペオ国務長官が、「共産主義の中国と自由世界の未来」という演説を行い、中国共産党に対する対決姿勢を強めた。そして27日には、四川省成都のアメリカ総領事館が閉鎖された。

 このように米中対決は、「新冷戦」を超えて、実際の「戦争」に少しずつ近づきつつあるかのように見える。こうした世界情勢の変化を前にして、改めて、『新しい公民教科書』に米中新冷戦の始まりを記しておいて本当に良かったと思うようになった。他社は全く触れていないが、米中新冷戦のことを中学生に、そして全国民に公的に提示しておくことが本当に必要だと思われるからである。単なる一教科書ではあるが、文科省という国の機関の検定を通過した教科書に米中新冷戦の体系的な説明があることは大きな意味があると考える。

単元61【冷戦終結後の国際社会】

そこで、今回は、米中新冷戦のことを記した『新しい公民教科書』の単元61【冷戦終結後の国際社会】の単元本文を引用しておこう。

冷戦終結後の国際社会

 1991年、ソ連の崩壊による冷戦終結後の世界では、グローバル化による世界の一体化と相互依存関係が深化し、ほとんどの問題が地球全体に網の目のように広がり、つながりをもつようになりました。国際政治は、冷戦終結後しばらくはアメリカが唯一の超大国としてリードしましたが、2000年ごろから、多極化が進み、 ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカのBRICSを中 心とした中進国が国力を増し、影響力を強めてきました。

 なかでも、2010 年に日本を追い抜いて世界第 2 位の経済大国となった中国は、2012年頃から、「中国の夢」と称して、 2020年代前半にアメリカを抜いて世界一の経済大国になり、 中華人民共和国建国 100 周年の2049 年までに軍事や科学技術をふくめてあらゆる面で世界一の国家になり、世界の標準になるという計画を出し、国力を増強させてきました。

中国の政治経済体制

 しかし、中国は、欧米や日本などの自由民主主義の国とは異なり、共産党が指導する国家です【1】。政治的には共産党による一党独裁国家 です。共産党の方針に反する表現、思想、言論の自由などは認められず、特にチベットやウイグル、内モンゴルにおける民族運動に対して激しい弾圧がなされていることが、国連や世界の人権団体により指摘されています。

 また、中国では、欧米や日本などと異なり、経済活動の中心は党の方針が直接反映される国有企業であり、民有企業も党の統制に服しています。社会主義市場経済をうたっていますが、民間企業が自由な発想に基づき自由に競争する市場経済とは異なるものになっています。要するに、自由民主主義の国家とは異なり、政治と経済は分離しておらず、両者とも共産党が強権的に支配しているのです。

法の支配をめぐる対立

  対外的にも、中国は強権的な姿勢を強めており【2】、2013 年、フィリピンが、 スカボロー礁の領有権や漁業権について、常設仲裁裁判所に仲裁を依頼した時には、仲裁に応じること自体を拒否しました。そして、2016 年に仲裁裁判所が中国の領有権主張に国際法上の根拠 がないと決定した時には、この決定を「紙くず」だと言って無視 しました。
 
 この中国の拡大を抑え込む動きがアメリカを中心とする諸国の間で世界に広がり、21 世紀の「新冷戦」ともいわれるようになりました。わが国は、自由、民主主義、人権という価値を共有する国々と協力して、国際社会において法の支配を守っていこうとしています。
 180~181頁


 上記のように、『新しい公民教科書』は、最初の小見出し部分で中国が世界一の国となること(覇権)を目指していることを記したうえで、第二の小見出し部分では覇権を目指す中国の政治経済体制を批判的に描き、第三の小見出し部分では日本がアメリカを中心とした自由民主主義の陣営に属していることを明記した。

 また側注①では中国という国家の特殊性を次のように説明した。

通常、党は国家の中の存在であり、国家・ 国民より下位の存在である。例えば2018年 現在わが国の自民党やアメリカの共和党が政権を担っているのは、選挙を通じて国民に信任されているからである。
 これに対して、中国では、共産党は、国家・ 国民より上位の存在として、政権を維持し国家と国民を指導しているのである。


 このように、『新しい公民教科書』は、側注➀では、中国という国家を、単なる一党特栽国家ではなく、共産党が国民と国家の上に位置する特殊な国家と位置付ける。そのうえで、側注②では、中国は対外的にも強権的な振る舞いをしている例を次のように示している。

スリランカ南部のハンバントタ港は、中国 の資金と企業によって建設され、2010年に 開港した。スリランカは通常より高い金利の 借金を返却できず、2017年、中国に99年契約で港の経営権を譲渡してしまった。

  以上、単元61の本文と側注を紹介してきたが、『新しい公民教科書』が示した米中新冷戦に対する認識は、そして中国の政治経済体制に対する認識は、当たり前の認識であるし、中学生だけではなく、政治家及び全国民が共有すべきものである。是非とも、多くの人が読まれることを希望する。

  他にも、『新しい公民教科書』を読むと、中国の特殊性、反人権性、強権性が学習できる部分がかなりある。そのうち特に、第5章の中の〈もっと知りたい 海をめぐる国益の衝突〉と〈もっと知りたい 近隣諸国の人権問題〉をお読みいただきたい。なかでもウイグル、チベット、モンゴルの諸民族に対する民族弾圧を記した〈もっと知りたい 近隣諸国の人権問題〉は、日本国民が必読すべきものである。『市販本 検定合格 新しい公民教科書』(自由社)を通じて読んでいただきたい。


検定申請本の単元61【冷戦終結後の 国際社会】

 なお、単元61の文章は、検定申請本(白表紙本)に多くの検定意見が付けられ、大幅に修正されて出来上がったものである。参考までに、単元本文と側注➀の原文を掲げておくことにする。参考にされたい。

 単元本文には106、107、108、110、111番と5件の検定意見が、側注➀には107、109番と2件の検定意見が付いた。白表紙本では、単元本文と側注➀は次のようであった。傍線部は検定意見が付いた箇所である。また、106とかの番号は検定意見番号を示すものである。106番の文章だけは不正確だが、他の5件は、全て正しい記述である。

 冷戦終結後の国際社会

 1991 年、ソ連の崩壊による冷戦終結後の世界では、グローバル化による世界の一体化と相互依存関係が深化し、ほとんどの問題が地 球全体に網の目のように広がり、つながりをもつようになり ました。国際政治は、冷戦終結後しばらくはアメリカが唯一の超大国としてリードしましたが、2000年ごろから、多極化が進み、 ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカのBRICSを中 心とした中進国が国力を増し、影響力を強めてきました。

 なかでも、2010 年に日本を追い抜いて世界第 2 位の経済大国となった中国は、2012 年頃から、「106中華民族の夢」と称して、2020 年代前半にアメリカを抜いて世界一の経済大国になり、中華人民共和国建国100 周年の 2049 年までに軍事や科学技術をふくめてあらゆる面で世界一の国家になり、世界の標準になるという計画を出し、国力を増強させてきました。

自由と人権を抑圧する中国
 107しかし、中国は、欧米や日本などの 自由民主主義の国とは異なり、共産党が国家を所有する変則的な国家です108政治的には、議会制民 主主義も存在せず、三権分立もない共産党による一党独裁国家です。したがって中国は、表現の自由などの人権を保障せず、 特にチベットやウイグル、内モンゴルにおける民族運動に対して激しい弾圧を続けています。  

 また、中国では、欧米や日本などと異なり、経済活動の中心は党の方針が直接反映される国有企業であり、民有企業も党の統制に服しています。社会主義市場経済をうたっていますが、民間企業が自由な発想に基づき自由に競争する市場経済とは異なるものになっています。要するに、自由民主主義の国家とは異なり、政治と経済は分離しておらず、両者とも共産党が強権的に支配して いるのです。

法の支配をめぐる対立

 対外的にも、中国は強権的な姿勢を強めており、2013 年、フィリピンが、スカボロー礁の領有権や漁業権について、常設仲裁裁判所に仲裁を依頼した時には、仲裁に応じること自体を拒否しました。そして、2016 年に仲裁裁判所が中国の領有権主張に国際法上の根拠 がないと決定した時には、この決定を「紙くず」だと言って無視 しました。110国内的にも法を重視しない中国ですが、国際法さえも 無視する態度を示しているのです。

 111この中国の拡大を抑え込む動きがアメリカを中心とする諸国の 間で世界に広がり、「新冷戦」が始まりました。わが国は、自由、 民主主義、人権という価値を共有する国々と協力して、国際社会 において法の支配を守っていこうとしています。

側注➀ 
107通常の国家では、党は国家の中の存在であり、国家・国民より下位の存在である。例えば2018年現在わが国の自民党やアメリカの共和党が政権を担っているのは、選挙を通じて国民に信任されているからである。  
109これに対して、中国では、共産党は、国家・ 国民より上位の存在であり、選挙による国民の信任も得ずに政権を維持している。逆にいえば、共産党は中国国家を支配する正当性も もたずに支配しているのである



補記--7月26日講演会動画一覧
 なお、7月26日には、私が大遅刻したため、三浦小太郎氏や西村幸祐氏をはじめ、多くの方に話していただいた。以下のように、私の講演を含め、全部で8部構成になっている。興味のある方は、視聴していただきたい。
 
➀山口さくら子 1万枚のマスクを贈ってくれたNPO『満州国協和会』紹介
https://youtu.be/giTtcpyv5fQ

⓶三浦小太郎
https://youtu.be/0fA_O_7wvRM

➂西村幸祐
https://youtu.be/cZztInwRPjk

④永井由紀子、杉原誠四郎 
https://youtu.be/9MjzsjQvZMs

⑤西村幸祐、三浦小太郎、茂木弘道 談論風発
https://youtu.be/pzHXhgNGRrI

⑥藤岡信勝 北朝鮮スパイ説を報道された教科書調査官
 https://youtu.be/As9g3rHTsnY

⑦澤井直明 教科書制作と検定対応ウラ話
https://youtu.be/cV4EprA9CQw

⑧本編 小山常実 国家解体の公民教育からの脱却を--『新しい公民教科書』の思想とは
https://youtu.be/1k19Ue-aKZM


  転載自由





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