令和2年版公民教科書を検討して特に気付いた『新しい公民教科書』の特徴――家族・地域社会・国家・国際社会論、中国論、ヘイト法をめぐって

 一種間ほど前に、今回の検定を通過した中学校公民教科書の全体的な検討を終えた。5月以来身体の休養をとることが第一の課題であったから、ずいぶん時間がかかってしまった。歴史教科書の検討もしたいと思っているが、手付かずのままである。
 さて、全体的な検討を終えて改めてわかった『新しい公民教科書』の特徴を記しておきたい。

家族――地域社会――国家――国際社会の四段階の社会の構造的説明をした

最大の特徴は、家族――地域社会――国家――国際社会の四段階の基本的な社会の構造を説明していることである。第一に、家族に2単元4頁という分量を用いているし、家族の意義を次のように4点に整理して明確化している。
1・家族が共同体であること、
2・家族間の愛情を育む場であること、
3・子供を保護し教育する場であること、
4・祖先から子孫への「縦のつながり」

また第二に、地域社会に一単元を割き、公共の精神、愛郷心を説いている。

この二点とも、公民教科書体の中では大きな特徴となっている。他社をみると、家族論と地域社会論の単元を設けているのは育鵬社1社のみである。現行版では帝国書院が家族論と地域社会論にそれぞれ1単元ずつ設けていたが、今回の帝国書院は、家族と地域社会について併せて12行ほどしか割いていない。家族論と地域社会論は、育鵬社以外の4社では消えてしまったとみることができよう。さらにいえば、育鵬社も家族論において親子関係さえ記していない。家族を平等な個々人の集合体として捉えたいからであろうか。

第三に、『新しい公民教科書』は、公民教科書史上国家論を初めて本格的に展開した。国内編で、初めて国家の役割を、1・防衛、2・社会資本の整備、3・法秩序、社会秩序の維持、4・国民一人ひとりの権利保障という四点に整理した。また、愛国心、愛郷心、公共の精神の大切さを記した。特に、国際社会編で主権国家論を展開するだけではなく、国内編で国家論を展開して国家の役割を明確化したことが特徴的である。

他社はすべて国際編で主権国家について語るだけである。国内編で国家の役割として防衛ということを挙げれば、当然に9条への疑問が出てくるからである。また、育鵬社以外は改正教育基本法を無視して、愛国心、愛郷心、公共の精神を説かない。日本社会をバラバラの個々人に解体して、日本の防衛力を弱めるためであろう。

第四に、今回の『新しい公民教科書』は、公民教科書史上国際社会論も初めて展開したと位置付けられる。まず、国際社会を、軍事力や経済力を使って競争しあいながら国際協調を図るものと説明する。次いで、敵国条項を明記し、日本が差別された存在である現実を明らかにしている。ここまでは現行版でも記していることだが、さらに今回初めて、国際社会を支える安全保障の構造を記した。単元64,65と二単元使って、国際社会における個別的自衛権、集団的自衛権、国連の集団安全保障という三段階の安全保障について説明した。さらに、国連の集団安全保障を現実に担うPKO部隊と多国籍軍との区別も説明した。ある意味、この点が最も画期的な事柄かもしれない。

対して、他社はどうか。育鵬社以外の4社には国益の言葉自体が存在しない。また、4社は敵国条項を書かない。そして育鵬社を含む他社すべてが国際社会を支える安全保障の構造を説明しない。他社は、話せばわかるというお花畑世界観が強い。9条の平和主義への疑問が出てこないようにするためである。少なくとも育鵬社以外は、日本人差別を隠して国連や外国を善人に見せるためである。

ともあれ、育鵬社以外の4社が家族――地域社会――国家――国際社会の四段階の基本的な社会の構造の説明を放棄しているのと対照的に、『新しい公民教科書』は教科書史上初めて、四段階の社会の説明を行っているのである。以上で『新しい公民教科書』の特徴の説明は尽きているともいえよう。

 中国の全体主義的性格、民族弾圧を記す

上記の事柄と比べれば細かい点ともいえるが、公民教科書の検討を通じて他にも気になったことがある。他社は、日本国民から国際社会の現実を隠蔽していると、つくづく思った。何よりも、他社すべてが米中新冷戦を全く書かない。それゆえ、中国にたいする批判的記述が、尖閣問題以外では存在しない。中国における一党独裁と自由の制限は日本文教出版が少し記すだけである。チベット、ウイグルへの民族弾圧は、育鵬社が半頁ほどで記すだけであり、日本文教出版は1行ほどふれるだけである。

  対して、『新しい公民教科書』は、単元61【冷戦終結後の国際社会】で米中新冷戦を記し、日本が自由民主主義体制の陣営に属すことを記した。そして、中国の体制を批判的に紹介した。共産党による一党独裁国家であること、党は国家国民より上位の存在であること、国際的にも法の支配を守らない国家であることを記した。さらには、〈もっと知りたい 近隣諸国の人権問題〉で、ウイグル、チベットとともに、モンゴルへの民族弾圧を詳しく記した。

 今日の国際社会は、米中対決の時代に入っており、米中新冷戦という認識なしに理解できないものになっている。また、中国によるウイグル民族に対するジェノサイドは、国際社会が見過ごしにできない最大の人権問題になっている。これらのことをスルーする公民教育であってはいけないと強く言っておこう。

ヘイト法を礼賛する他社

 米中新冷戦をスルーしておきながら、他社公民教科書はすべて、法の下の平等を守らない日本人差別法であるヘイト法を礼賛する。他社は非立憲主義に染まっており、反日思想に染まっている。

 5社ともヘイト法への批判的記述は一切せず、ヘイト法の紹介をしている。その中でも、 教育出版と育鵬社は、所謂カウンター側を礼賛している。教育出版は、55頁〈公民の窓 ヘイトスピーチ〉でヘイト法の説明を行い、ヘイトスピーチに反対する人たち(2016)の写真を掲げている。また、育鵬社は、58頁側注欄にヘイト法の基本理念を示すものとして第3条を引用し、58頁上欄に「ヘイトスピーチについて伝える記事(2016年)として、「中高生抗議の原動力 ヘイトスピーチ『おかしい』」という新聞記事を掲げている。育鵬社は、カウンター側を完全に英雄視しているのである。
 
 自由社申請本はヘイト法が法の下の平等に反すると記していた

 対して、『新しい公民教科書』の検定申請本は、権利の平等の問題の例としてヘイト法を取り上げる小コラムを設けていた。小コラムのタイトルは、〈ミニ知識 法の下の平等に反するヘイトスピーチ解消法〉というものである。

 2016(平成28)年、「 本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する 法律」(ヘイトスピーチ解消法)が成立した。この法律は、本邦外出身者すなわち外国人に対するヘイトスピーチだけを解消すべきものととらえ、日 本人に対するヘイトスピーチを見逃すものである。

第3条 国民は、本邦外出身者に対する不当な差 別的言動の解消の必要性に対する理解を深めると ともに、本邦外出身者に対する不当な差別的言動 のない社会の実現に寄与するよう努めなければな らない。

 本来、ヘイトスピーチを規制することは表現の 自由を抑圧する危険性が高いから慎重にすべきであるとの意見は根強い。規制を認めるとしても、「 本邦外出身者に対する不当な差別的言動」だけではなく「人種等を理由にする不当な差別的言動」全体を問題にすべきである。aそして、国民だけではなく日本居住の外国人にも義務を課すべきである。b同じことを、2018年、国連人権理事会は日本政府に対する勧告の中で指摘した。c本法は、明らかに権利の平等に反する法律である


 この記述の傍線部に対して、「生徒が誤解するおそれのある表現である」との検定意見が付いた。11月27日では、教科書調査官は、〈「国民だけではなく日本居住の外国人にも義務を課すべきである」は分かるし、このままでよい。しかし、国連人権理事会の箇所がおかしい。〉ということだった。この件についてだけは、かなり、考え方が共通していると感じた。だから、人権理事会云々のbだけ削除すればOKをもらえるかと思ったが、そうはいかなかった。

 タイトルから「法の下の平等に反する」が削除された

 bを削除した案を提出すると今度はaとcにも注文が付き、微修正で乗り切ろうと頑張ったが、1月下旬にはこの傍線部全体を削除することとし、OKとなった。これで終わりだと思ったが、修正表提出後の2月27日、〈ミニ知識 法の下の平等に反するヘイトスピーチ解消法〉というタイトルから「法の下の平等に反する」を削除せよと指示され、指示通り削除することによって、合格となった。

 この小コラムの趣旨はヘイト法が法の下の平等に反することを示すことであったが、結局ゆがめられてしまった。自由社合格本も、〈ヘイトスピーチ解消法〉というタイトルに注目すれば、他社と同じく、ヘイト法を承認するものになっているとも言える。しかし、特に第三段落の「本来、ヘイトスピーチを規制することは……」に注目すれば、自由社本は、ヘイト法が表現の自由や法の下の平等の点で問題のあるものであることを指摘したものと捉えることができる。その意味では、他社5社とは、完全に一線を画するものであるとはいえよう。
 
 とはいえ、ヘイト法は、立憲主義を否定したとんでもない非立憲主義の法律である。その表現の自由の抑圧という点でも、日本人差別の点でもとんでもない代物である。私は、この法律こそが日本という生命体の延髄をぶっ叩いて破壊する「棍棒」になっていくのではないかと恐れている。そんなことは、左右を問わず、皆わかっているのではないか。

 ともかく、国会議員諸氏よ、一刻も早く、ヘイト法廃止を提案されよ。あるいは、「日本国民及び本邦出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」案をつくられよ。国会議員諸氏には、上記いずれかの方法で、ヘイト法の害悪を阻止する責務があると言っておく。
 
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