『新しい公民教科書』の画期性とは何か4--立憲的民主主義(1)―――権威と権力の分離、権威としての天皇の思想

 「日本国憲法」7原則

 『新しい公民教科書』は、政治編において立憲的民主主義(自由主義的民主主義のこと、共産主義やファシズムなどの全体主義的民主主義に対立するもの)の論理を展開した。単元20「日本国憲法の原則」で、「日本国憲法」の原則として次の7原則を挙げている。

  1、国民主権
  2、基本的人権の尊重
  3、平和主義
  4、象徴天皇
  5、法治主義(法の支配)
  6、三権分立
  7、間接民主主義 

「立憲君主制の原則」から「象徴天皇の原則」に変えられた

 以上の7原則のうち4についてのみ、今回は取り上げよう。4は、申請本では「立憲君主制」としていたが、権威と権力の分離を目の敵にした検定によって「象徴天皇」に変えられてしまった。調査官は、権威と権力の分離を徹底してつぶしに来た。そもそも権威と権力の区別が彼らにはわからない。いや、わかっているのだが、わからないふりをしてつぶしに来たとも考えられる。

 権威と権力の分離を認めれば、天皇=権威となり、天皇元首論を否定できなくなる。すると、現代日本は天皇を元首とする立憲君主制であるとする理論を否定できなくなる。彼らは、ともかく、〈天皇は単なる象徴に過ぎない〉という象徴天皇制論、とりわけ消極的象徴天皇制論に立つから、立憲君主制論をつぶすためにも、権威と権力の分離の思想を認めたくなかったのであろう。

 〈もっと知りたい 立憲主義を受け入れやすかった日本の政治文化〉


 だが検定合格本でも、権威と権力の分離の思想に基づく立憲君主制の論理が少しは展開されている。例えば、〈もっと知りたい 立憲主義を受け入れやすかった日本の政治文化〉では、日本における権威と権力の分離の伝統が近代の立憲君主制を導いたと記している。

  権威としての天皇が存在し続け、政治が 大いに安定し、外国に比べて平和な時代が長く続き、文化は着実に成熟していったと考えられている。

  大日本帝国憲法下の天皇が統治権を総攬する一方、実際の政治は立法、司法、行政の三権に任せる立憲君主であり続けた背景には、このような権威と権力の分離があったのである」(56頁)。


 「歴史に基づく天皇の役割」

 また、単元22「天皇の役割と国民主権」では、「歴史に基づく天皇の役割」という小見出しの下、以下のように記している。

天皇は、国家の平穏と国民の幸福を祈ることにより、 長い歴史を通じて国民の信頼と敬愛を集めてきました。日本の歴史において、権威と権力が分離するようになったのちは、天皇はみずから権力をふるうことなく、幕府などそのときどきの政治権力に正統性をあたえる権威としての役割を果たしてきました。

 日本国憲法のもとでの天皇も、日本の政治的伝統にならった役割を果たしています。天皇は「国政に関する権能」すなわち 政治権力を行使する権能をもちません(4条)。しかし、内閣の助言と承認に基づいて、さまざまの国 事行為をとり行います (6条、7条)。法律、条約、政令なども、この天皇の国事行為 としての署名によって、国家の手続きが完了します。また、対外的には、天皇は諸外国から日本国を代表する元首としての待遇を受けています。   66頁



 1番目と2番目の傍線部に注目するならば、現代日本でも権威と権力の分離が存在し、天皇は権威としての役割を果たしていることになる。それゆえ、「象徴天皇の原則」と言っても、半ばは〈権威の役割を国王が、権力の役割を首相が担う立憲君主制の原則〉という論理を『新しい公民教科書』は展開したともみなせよう。

 ただし、「日本国憲法のもとでの天皇も、日本の政治的伝統にならった役割を果たしています」の部分を、「日本国憲法のもとでの天皇も、権威としての役割を果たしています」と記していたら、検定合格しなかっただろう。「日本の政治的伝統にならった役割を果たしています」と少しはぼかした形で記したから検定合格したのである。調査官は、いやその背後にいる公民小委員会は、現代日本の天皇が権威としての役割を果たしているとストレートに記すことを絶対に許さなかったであろう。これは、今回というよりも、9年前の検定を経験した立場から思うことである。
 
  また、3番目の傍線部には、「天皇は諸外国から日本国を代表する元首としての待遇を受けています」と書いているが、これが現在の検定体制では精一杯の表現である。現代でも、天皇は元首であるし、公権解釈もそのように解釈している。にもかかわらず、調査官はストレートに「天皇は元首である」と書くことを許さなかっただろう。これも、9年前の検定を経験した立場から思うことである。少しずつ、明確な天皇元首論に近づく表現を追求していくしかないのであろう。
 
  しかし、ここまで書いてきて、本当に狭い考え方の人たちが、教科書検定を牛耳っているのだなぁと改めて思わされた。『新しい歴史教科書』の検定不合格事件に鑑みても、検定制度の改革が必要であると改めて思った。


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