交戦権否認の怖ろしさ--安倍改憲案とは日本滅亡路線の選択である

  前回記事を書いた後、交戦権が否定された状態の怖ろしさについて書かれていないな、と感じた。そして、昨年、『新風』の平成30年3月号に掲載した論考のことを想い出した。私が交戦権問題について著わした論稿の中では、最もコンパクトに且つ分かりやすく展開できたものと思われるので、『新風』に掲載した元原稿を載せておきたい。傍線や赤字は、ブログに掲載するにあたって付したものである。いろいろ戦況を想像しながら熟読していただきたい。


 安倍改憲案とは日本滅亡路線の選択である
  ―――自衛戦力と交戦権を肯定せよ―――

                                                    小山常実
 
  昨年五月三日、安倍首相は、第九条第一項と第二項を護持し、第三項に自衛隊の根拠規定を置く「日本国憲法」改正案を提案した。以来、その方向で自民党内の議論が行われている。しかし、筆者は、そもそも「日本国憲法」改正案というものに反対であるが、その中でも、第九条第二項を護持する安倍案は最悪のものだと考えている。

  第九条第一項と同様の規定は、イタリア、韓国、ハンガリー、フィリピンなどの憲法にも見られるが、第二項と同様の規定を持つ国は、日本以外には存在しない。第二項は、戦力放棄、交戦権否認の二点の内容を持っている。ここでは、自衛戦力肯定の必要性は当然のこととして、交戦権を否認することの怖ろしさ、交戦権肯定の必要性について論じていきたい(拙著『自衛戦力と交戦権を肯定せよ』自由社)。

 交戦権のない経済大国日本は中小国にも敗北する

  現在の法体制下では、自衛隊は基本的に警察の役割しか果たせない。ただし、「防衛出動命令」が発令された場合には、自衛行動権に基づき武力行使できるし、軍隊もどきのことはできる。しかし、「防衛出動命令」が発令されても、専守防衛の理念からして、発令されてから初めて作戦計画を立てて出動準備を行うことになるので、実際に自衛隊が戦える体制になるのに最低一週間以上はかかる。下手すれば、半年もかかるかも知れないという(中村秀樹『日本の軍事力』K・Kベストセラーズ、二〇一七年)。

  何とか戦えるようになったとしても、交戦権を否認された日本は、交戦権を肯定されている諸外国とさしで戦った場合、ミニ国家にも勝てないし、韓国レベルの中小国家には必ず敗北する。そもそも、交戦権を放棄していない外国は、中立国の領土・領水及び領空以外のあらゆるところを戦争区域として戦うことができる。これに対して、日本は交戦権を否認し専守防衛を国是としているので、原則として自国の領土・領水及び領空で戦うことができるだけである。従って、外国は、日本の領土内に入り込んで首都東京を占領することも出来る。これに対して、日本は、敵国領土に侵入できないから、敵国たる外国の首都を占領することも出来ず、相手方を降伏させることは出来ない。つまり、相手国がミニ国家であっても、日本の勝利はあり得ないのである。

  しかも、一旦、日本領土内に侵略軍が入り込んだ場合、日本はなかなか撃退できないだろう。例えば、敵軍が上陸して自衛隊と1か月も2か月も睨みあう膠着状態になった場合、自衛隊は隙を見て突撃できるのであろうか。交戦権を否認した日本では、戦況が落ち着いてしまった場合における突撃は自衛行動とは言えないという理屈が十分成立するし、必ず左翼とマスコミがこの理屈を唱えるだろう。今日では敵撃滅に最大の力を発揮するのは空爆であるが、敵国は自由に日本に対する空爆を行えるのに対して、日本側はほとんど行えない。日本は、一定程度軍事力を備えた国家との戦いでは敗北必至である。

 海洋国家日本は日干しにされる

 たとえ戦闘そのものには勝利しても、補給戦のことを考えると、海洋国家である日本は日干しにされていくだろう。補給戦で重要なのは、海上であり、海戦である。海戦では、陸戦の場合と異なり、日本の敵国は公海上で自由に日本の商船を拿捕し、その載貨とともに没収できる。しかし、交戦権のない日本は、敵国商船を没収することは出来ない。

 更に相手国は、少なくとも宣戦布告して国際法上の戦争に持ち込めば、中立国商船を通じて資源物資が日本に渡らないようにするために、日本の港を戦時封鎖することもできる。相手国に一定程度の海軍力があれば、自由に日本に対する封鎖線を設定し、食糧も石油も日本に入っていかないようにすることができる。これに対して、日本側には戦時封鎖権は存在しないのである。日本の位置が大陸にあれば、戦時封鎖をくぐり抜けることもできるかもしれないが、四囲を海に囲まれた海洋国家である日本は、完全に日干しにされるであろう。結局、普通の中小国と長期戦で戦った場合、日本は必ず敗北するのである。

 要するに、交戦権の否認とは、自衛権を否定するのと同じことである。このことを、日本国民に理解していただきたいと心から願う。諸外国は、そのことを理解しているからこそ、第九条第一項と類似した規定を持つけれども、決して第二項を模倣しないのである

 実質的に自衛権を否定した日本は、大国=米国に保護される属国中の属国として生き続けざるを得なかった。だが、「日本国憲法」は押し付けられたものであり、自ら交戦権否認を、属国を選んだわけではない。従って、本当に危機が迫った時には、外国に押し付けられた「日本国憲法」なんて憲法ではないと宣言し、交戦権を行使できるかもしれない。

  しかし、安倍改憲案が通過すれば、日本国民が交戦権否認を正式に認め、正式に大国の属国となることを宣言したことになる。仮に、米国が東アジアから手を引いていった場合には、日本は、中国による侵略にさらされても、自分たちが選んだ第九条第二項に拘束されて交戦権を行使できず、属国どころか、国家として消滅していく可能性が一挙に高まろう。つまり、安部改憲案とは日本滅亡路線の選択を意味するのである。それゆえ、何としても、自衛戦力だけではなく交戦権を肯定する方法を探らなければならない。その方法としては、優れた順に並べれば、「日本国憲法」無効決議、自衛戦力と交戦権を肯定する第九条解釈の採用、第九条第二項削除の「日本国憲法」改正の三者がある。安倍政権や議員たちには、いずれかの方法を採用していただきたいと心から願うものである。

   転載自由




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この記事へのコメント

中核自衛隊
2019年07月09日 10:41
中村秀樹なんぞ海の田母神みたいなやつなのでどうでもいいです。
デマだらけだし。

憲法9条の「本当の意味」をそろそろ直視しませんか?
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/51626?page=3
>9条2項は、「国の交戦権」も否認する。これについて衒学的争いがある。
>1項で戦争放棄しているのに改めて交戦権を否認するのは重複だ云々といった話である。
>そこで政府は、2項の交戦権を、戦争をする権利ではなく、交戦国が持つ諸々の権利、と解釈している。
>どちらでも同じだ。「交戦権」は、現代国際法では意味をなさない。
>国連憲章2条4項で武力行使を一般的に禁止しているからだ。

実は国連加盟国はみんな交戦権なんぞ無いのでした。

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