9条真理教と戦わない安倍真理教―――「空気」に支配される日本

自民党は9条②項の危険性を説いたことがあるのか

 11月1日、また本当に体に悪い、嫌なニュースに遭遇した。10月31日、自民党の高村正彦副総裁は、「日本国憲法」第9条②項削除は無理だと述べたという。BSジャパンの番組でのことである。高村副総裁は、今年の『正論』9月号でも、潮匡人氏との対談「私達だって9条2項は削りたい」で同じことを述べていたが、またも同様のことを述べた。《国民には1項と2項を併せた9条信仰が強く、とても国民投票で多数を得られない》ということを理由にするもののようである。

 しかし、歴代自民党政権は、これまで、正面から9条②項の危険性を国民に対して説いたことはあるのか。戦力がなくて交戦権がなくては国を守れないことを説いたことがあるのか。日米同盟がなければ国を守れないとか、自衛隊がなければ大変だということは聞いたことがあるが、交戦権否認と戦力否定の危険性について、歴代首相から聞いたことはない。「日本国憲法」改正に熱心な安倍首相からも、一言も聞いたことはない。

 高村氏は国民の9条信仰云々というが、9条②項削除に反対する国民は、わずかに過半数を超える程度ではないか。確かに、《9条にノーベル賞を》運動を担っている人たちを始めとする9条真理教の信者は多数存在するし、これら信者に賛同する国民も多数存在する。しかし、絶対多数では全くないし、せいぜい45%から60%程度であろう。5%から10%程度の国民を説得し、9条②項削除賛成派に転向させればよいだけの話ではないか。

 なぜ、尖閣の危機を説かないのか。なぜ、国際法上戦力も交戦権も肯定されており、これらが否定された国は、国防が成立しないことを説かないのか。説きもせず、なぜ諦めるのか。自民党の人たちは(他党も同じだが)、国防の重要性、9条②項の危険性を説く気概に欠けているのではないか。
 
 交戦権問題を研究し、議論せよ

  いや、実は、日本の議員たちや政府関係者は、戦力問題に関する研究も不十分だし、交戦権問題については全く研究してこなかった。タブーにしてきたのである。そもそも、交戦権否認の危険性をきちんと知らないから、何とかなるさという感覚があって、9条②項護持に賛成するのであろう。

 ともかく、何度も言っているように、いろいろな専門家や議員の諸氏には、交戦権問題を研究し、議論されることを望むものである。

 そして、そもそも自衛戦力と交戦権を肯定する第9条解釈こそが、正しい解釈だということに気付いてほしいもものである。正しい解釈は、すでに長尾一紘氏などによって提示されているのだから、それらの学説から学んでほしいものである。これさえできない人たちが、第9条②項削除の「日本国憲法」改正を成し遂げられないのは当たり前なのかもしれない。

9条真理教と戦わない安倍真理教 

  というようなことを考えると同時に、前に拙ブログ記事で説いたように、国防をめぐる安部改憲案が《9条にノーベル賞を》運動の人たちの主張(特に内田樹氏ら)と同じモノになっていることに想いをめぐらした。
  http://tamatsunemi.at.webry.info/201705/article_4.html

 考えてみれば、高村氏もほとんど全ての改憲派も、本来、9条②項削除論者であった。ところが、簡単に9条②項護持論者に変節、転向してしまった。この変節・転向は、改憲派の多数を占める所謂保守派が安倍真理教に陥っていることから生まれた。他にも理由があるだろうが、安倍真理教が大きな理由であることは間違いないところである。

  とすれば、安倍真理教と9条真理教とは激しく対立してきたが、結局、一致してしまったのである。いや、安倍真理教の不戦敗である。全く9条②項に対する批判をしないまま、9条②項護持を主張するからである。安倍真理教は、9条真理教と全く戦おうとしないのである。

 「空気」に支配される日本

 安倍真理教や9条真理教の問題を考えていくと、両者が非常に類似していることに気付く。ともかく、二つの真理教徒とは、議論が成立しない。彼らは、完全に「空気」に支配されている。立ち止まって、物事を考えることができない。

 交戦権がなければどうなるか、考えようともしない。自衛隊が戦力でなければどうなるか、考えようともしない。いや、安倍真理教徒の場合は、戦力問題はある程度考えているけれども、それでも、国際法は自衛隊を軍隊、戦力と見なしているから捕虜として扱われると安心している。本当に、両者ともお花畑なのだ。

 国際法や欧米諸国が自衛隊を軍隊とみていることはその通りだが、『自衛戦力と交戦権を肯定せよ』(自由社)の中で強調したように、アメリカはアフガニスタンを支配していたタリバン政権の兵士たちを捕虜として扱わなかった。また、岸田外相は、2015年の安保法制国会の時、後方支援の自衛隊員は捕虜資格がないと断言した。それゆえ、日中戦争が起きた際には、中国側が自衛隊員を捕虜として扱わない可能性が十分あるのだ。いや、欧米諸国とて、若しも日本と戦うことになれば、同じ態度をとる可能性は当然存在する。これらの可能性さえ考えようとしないのが、今の所謂保守派である。もう一度言うが、所謂保守派又は安倍真理教徒も本当にお花畑なのだ。

 いや、正確には、考えていないわけではない。ある程度は、交戦権否認の危険性、戦力否定の危険性は分かっているのだろう。しかし、きちんと交戦権否認問題・戦力否定問題を研究していないから、《安倍首相のやることに間違いはない》という安倍真理教に陥った所謂保守派は、すぐに安倍首相の唱えた9条加憲案という9条②項護持案にのめりこんでいく。そして、総選挙の圧勝でますますのめりこんだ所謂保守派は、イケイケドンドンとなり、彼らには《9条②項護持で憲法改正だ》という「空気」ができてしまった。そして彼らは、安倍改憲路線が永久属国→滅亡路線という意味を客観的に持っていることに気付かず、谷底に転げ落ちていくだろう。

 「空気」に抵抗せよ

 「空気」ができてしまえば、もはや、日本では「空気」にさからうことはできないのであろうか。所謂護憲派の世界では、9条②項で日本を守れるのかということを理性的、論理的に考えることは、彼らの中の「空気」が許さない。

 同様に、今や、所謂保守派の中でも《交戦権がなくて日本は守れるのか論理的に考えよう》という主張も、所謂保守派の「空気」が許さなくなっていくのかもしれない。どう考えても、安倍改憲案は、2020年代に日本に存亡の危機を招来する。今ある「空気」に抗して、9条②項の問題を説き続けなければならない。

 安部改憲案が改憲派を死滅させたことに留意せよ

 所謂保守派は、自民党が圧勝したことで改憲に向かって前進し続けていると勘違いしている。だが、2014年12月以来、実は後退し続けているのだ。そのことに留意しなければならない。
 
2014年12月総選挙前
  自民党293 公明党31 民主党62 維新42 次世代19 共産8 生活5 社民2
2014年12月総選挙後
  自民党291 公明党35 民主党73 維新41 次世代2 共産8 生活21 社民2
2017年10月総選挙後
  自民党284 公明党29 立憲民主55 維新11 希望50 共産12 生活5 社民2


 3回ほど前の記事で記したように、今回、9条②項削除を掲げる党はゼロになった。振り返れば、衆議院だけの比較となるが、2014年12月総選挙前には、次世代の党と自民党が9条②項削除の立場であり、次世代の党の中には多数の「日本国憲法」無効論者がいた。

 しかし、この時の選挙で、次世代は2名となり、全く力を失ってしまった。それでも、自民党という9条②項削除を掲げる党があった。ところが、安部改憲案が出て以来、自民党も9条②項護持論の方向に大きく舵を切り、今や、9条②項削除を掲げる党は皆無となった。

  ほんの5月までは、第9条第2項削除は、改憲派にとって一丁目一番地であった。第9条第2項を削除しなければ日本の独立はあり得ないし、改憲は日本の独立を目指して行うものだったからである。ほんの5月までは、この常識が生きていると私は思っていた。単なる知識としては、所謂保守派はこのことを知っているが、驚くべき変わり身の早さで、この常識を振り捨ててしまった。この改憲派に対する本来の定義からすれば、日本の政界では改憲派は死滅したのである。安倍偽改憲案の提示こそが、改憲派を死滅させたのである。このことの怖ろしさに目を向けなければならない。

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この記事へのコメント

カンパニュラ
2017年11月04日 23:58
保守系の団体、自衛隊OBの方、軍事防衛の専門家等、私の存じます限り、安倍加憲案に賛成している方達ばかりでございます。
又、軍事の専門雑誌でも、陸海空の防衛戦について楽観的な予想が描かれており、怪訝な感じが致します。
先生の御著書「自衛戦力と交戦権を肯定せよ」にございますように、敵の上陸を許してしまった後、勝ち目があるとは思えませんし、ポジティブ・リストでは日本は守れないと存じます。
又、安倍加憲案に反対し、自衛隊を軍隊として認めるべきと主張なさっている方でさえ、現行憲法のままでも、自衛隊員は捕虜として扱われるとの認識を持っておられるようでございます。先生が強く主張しておられます、有事の際自衛隊員が捕虜としての待遇を受けられない危険性について、具体的に真剣に、想像してみる事さえなさる人が、ほとんどいらっしゃらないのではないでしょうか。
先生の御著書で特に印象深く存じましたのは、日本は交戦権がないために補給戦で必ず敗北する、というところでございます。このような具体的な事例について、政府も軍事の専門家も国民に説いてこなかった事に、愕然と致しました。
私なりに小さな声を上げたのでございますが、今のところ届く人が見つかりません。



私なりに声を上げてはおりますが、届く人が見つかりません。
小山
2017年11月06日 11:59
カンパニュラ様
 いろいろご尽力ありがとうございます。基本的に、私の問題提起については、37年前の江藤淳の問題提起の場合と同じく、黙殺しようという共同意思があるようです。私の意見を無視しても、専門家が交戦権否認問題を研究しだしてくれればよいのですが、そうならない可能性が高そうです。ただ、機会を見付けて、交戦権や戦力を否定することの危険性、亡国性を訴えていきたいと考えています。
 結局は、自分たちはアジアに対して悪いことをしたという自虐史観が拭えないことが根本にあるようです。あるいは、生存本能が衰退してきているのでしょうか。自虐史観ゆえに生存本能が衰退しているという関係性もあるのでしょうが。
カンパニュラ
2017年11月23日 21:37
 先月と今月の二回、地元の自民党広島県連にファックスを出し、いきなり安倍加憲案が表明され、党内から異論がほとんど聞こえてこない事について、先生の御著書の紹介もかねて質問致しました。そして昨日、県連に電話を致し、問い合わせましたので、事務局との遣り取りの一部を御報告致します。
 事務局「自民党の憲法改正草案では国民の同意が得られないので加憲案になった。議論中で、まだ決まってはいない。議論ができるようになったのは安倍首相の功績だ。」
 私「しかし異論はほとんど聞こえてこない。国民に同意を得ようとしてこなかったのは自民党の怠慢だ。」
 事務局「ファックスへの回答はしない。」
 私「他党は回答するのに何故しないのか。」
 事務局「自民党は与党だから責任があるからだ。」
 此の事務局の対応には現在抗議中です。
小山
2017年11月25日 11:59
カンパニュラ様
 いろいろご尽力ありがとうございます。安倍首相の9条③項加憲案については、反対意見も小堀桂一郎氏や西尾幹二氏、中西輝政氏を始めとして根強いようですが、基本的に露出が控えられているようです。言論界も、所謂識者も空気を読んでいるようです。その広島県連の方の対応も、空気ばかりを読む日本人の性格が表れたものでしょう。日本人は、安倍首相の吹く笛に誘われて一歩ずつ、秩序だって海に飛び込んでいくネズミになっています。
 拙著が全国会議員に届いた頃だと思いますが、何人かでも読んでもらえればと思っています。読んでも頭から排除するのでしょうが、5人でも真面目に読んでもらえれば、少しは情況が変わらないかと願っています。
カンパニュラ
2017年11月26日 02:00
 コメント有難うございます。
 私は先生が全国会議員に御著書をお送りになったとは存ぜず、自民党広島県連に先生の御著書を送りたいと申しましたら断られましたので、県連会長事務所に電話を致し、先生の御著書をお送り致す許可を得て、既に手配を致してしまいました。 
 
小山
2017年11月26日 02:32
カンパニュラ様
 ありがとうございます。別に構わないと思います。本を手にする人が一人でも増えることにつながると思います。
 チャンネル桜の10月28日付討論会を動画で見ると、水島氏が、安倍総理の周辺は9条②項削除せよとガンガン言う人が多い方がよいと言っていると言っていました。水島氏に対するリップサービスだと思いますが、安倍信者こそ、安倍改憲案反対を叫ぶべきなのだと思います。

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