育鵬社の出鱈目証拠乙45号総論――都合の悪い教科書記述をカットして作った

 前の記事で記したように、被告側の最大の勝因は、裁判が始まってから一年以上経過して出された乙45号証という膨大な証拠の存在であった。だが、この証拠は、乙3~20号をはるかに超える出鱈目なものだった。

 乙45号証とは、47箇所の盗作箇所について平成8年版、13年版、17年版、23年版の4年度の中学校歴史教科書がどのように記述しているか、原文のまま抜きだして比較対照できるようにした証拠である。例えば、盗作番号(1)「縄文時代」について言えば、扶桑社の13年版と17年版と育鵬社版以外に、平成8年版と13年版の東京書籍等7社ずつ、17年版と23年版の東京書籍等4社ずつ、計25の「縄文時代」の記述を抜き出して作成したものである。この証拠を作成するに当たっては、どうも一から打ち込んでいったようである。膨大な作業量であったと推測される。

 最初にこの証拠を見せられた時には、この証拠にどういう意味があるのか全く分からなかった。被告側は、この証拠を基にして、扶桑社と育鵬社が類似している記述は、他社の教科書にも普通にありますよ、さして個性・創作性のある記述ではありませんよと言いたいことは分かったが、到底そのように主張する根拠になるとは思えなかった。扶桑社及び育鵬社と他社との類似性よりは差異の方がはるかに目立っていたからである。

  乙45号証の立証趣旨

 さて、被告側は、乙45号の立証趣旨を三点挙げていた。すなわち、

第一の立証趣旨……各教科書とも、本文部分については、概ね同様の歴史的事実を選択し、配列しており、本件部分特有の個性など特に見受けられないこと
第二の立証趣旨……原告が同一性を有すると主張する部分については、その大半は、他社も同様の事実を同様の配列によって取り上げており、このような記述について創作性が認められれば、扶桑社版教科書を含め各社の歴史教科書がいずれもどの部分か-しかもかなりの割合-で他社の教科書の記述を翻案していることになってしまうこと。
第三の立証趣旨……各社の教科書を比較しても、教科書の性質上当然に、類似の記載が多々見られること等。

以上、三点である。

 しかし、いずれの立証趣旨も、乙45号が満たしているとは到底思えなかった。乙45号を読んでも、第一の立証趣旨にある「各教科書とも、本文部分については、概ね同様の歴史的事実を選択し」とは到底思えなかった。【事項の選択】において、各社の類似性よりも相違性の方が目立っていたからである。それゆえ、第二の立証趣旨にある「原告が同一性を有すると主張する部分については、その大半は、他社も同様の事実を同様の配列によって取り上げており」という被告側の認識も、デタラメなものとしか思えなかった。我々も、いわゆる自虐各社は、似たような事項を取り上げ、同じ事項を選択し選択した事項を同じように配列していると若干思っていた。ところが、乙45号証を見ると、むしろ自虐各社の【事項の選択と配列】は極めて個性的にしか見えなかった。

 そして、文章表現のレベルでも、第三の立証趣旨にある「各社の教科書を比較しても、教科書の性質上当然に、類似の記載が多々見られること」とは到底見えなかった。自虐各社は、同じ事項を選択し、同じような配列を行った場合でも、異なる記載・表現を行っていたからである。

 このように乙45号証を読んだだけでも、自虐各社でさえも各社個性的なわけだから、扶桑社版の個性は、【事項の選択と配列】レベルでも具体的文章レベルでも際立っていた。したがって、乙45号証は、扶桑社版の個性・創作性を否定する証拠にはなり得ないと考えていた。

 分かりやすい例を一つ挙げれば、前の記事で取り上げた「(47) 湾岸戦争」の箇所の例がある。前の記事で述べたように、扶桑社版は、「この戦争では、日本は憲法を理由にして軍事行動には参加せず、……国際社会はそれを評価しなかった。国内では日本の国際貢献のあり方について深刻な議論がおきた。」と記述していた。これは前の版である平成13年版からの記述を基本的にひきついだものだが、要するに、扶桑社は、日本が憲法を理由に軍事行動に参加しなかったこと、国際社会が評価せず国際貢献のあり方が問われたこと、という二点のことを教科書史上初めて取り上げたのである。

 この点は、乙45号証でも明確に確認できた。延べ25社から扶桑社版2つと育鵬社版の3社を除く22社の記述を乙45号証で確認してみると、記載がないことを示す斜線が引かれている教科書が14社もあり、記載のあるとされているのが8社だけである。すなわち、湾岸戦争を取り上げただけでも、扶桑社版には一定の個性があることになるのである。しかも、乙45号証を眺めてみると、上記二点を取り上げた教科書は皆無である。したがって、乙45号証によってみても、扶桑社版の【事項の選択】は、中学校教科書として極めて個性的・創作的なものだということが判明するのである。もっとも、にもかかわらず、一審判決が、乙3号という一般歴史書、それも平成20年版の歴史書の存在を根拠に17年版扶桑社の創作性を否定したことは、前記事で記した通りである。

 ともあれ、原告側には、乙45号証によって扶桑社版の創作性を否定することは不可能にしか見えなかったのである。それゆえ、乙45号証が果たして証拠たり得るか、という問題設定を全くしなかったし、乙45号証批判の論陣を張ることも全くしなかったのである。

 しかし、振り返れば、このことは大失敗であった。育鵬社サイドを勝たせるための最大の証拠として乙45号証が使われたからである。実は、乙45号証は、とんでもない代物だった。当然入れるべき記述を省いたり、あるいは入れてはいけないものを入れたりして作られたものだった。では、何が乙45号証の問題か、総論的なことを今回の記事では述べておこう。
 
原告や被告の文章を勝手に削除または付加する

 何よりも、第一に指摘すべきは、乙45号証には、原告側が47箇所にわたる著作権侵害を指摘する際に作成した比較対照表に掲載されている文章から、勝手に言葉を付け足したり、消去したりしていることである。付加と削除の代表例を一つずつ紹介しよう。

 まず付加の例としては、「(19)秀吉の全国統一」のケースがある。被告側書籍である育鵬社版の「秀吉の全国統一」のところを見ると、次の文章が付加されていた。これにはびっくりした。

  秀吉は、征服地など約200万石の領地をもつとともに、大阪、京都、堺、長崎などの重要都市を直接支配しました。さらに、佐渡金山(新潟県)や生野銀山(兵庫県)などの開発を行って、これを直接支配し、天正大判などの貨幣をつくりました。 

 この文章は、原告が指摘していない余計な部分である。恐らくは、育鵬社版と扶桑社版との違いを少しでも大きく見せるために付加したのであろう。ちなみに、この文章は、平成17年版東京書籍の「全国統一を完成しました。」の後に続く「秀吉は、征服地など約200万石の領地をもったほか、大阪、京都、堺などの重要な都市は直接支配しました。さらに、大名の領地にある金山や銀山から税を取り、佐渡金山(新潟県)や生野銀山(兵庫県)などの開発を行い、統一的な金貨や銀貨を発行しました。」(85頁)を盗作して作られたものである。他社の教科書を参照しながら執筆していったわけだから、扶桑社版以外からも盗作してしまうのは当たり前のことなのである。

 次に削除の例としては、「(20)秀吉の朝鮮出兵」のケースがある。原告側書籍の扶桑社版の出だしは、「約100年ぶりに全国統一を果たし、秀吉の意気はさかんだった。」というものだった。ところが、育鵬社は、この出だし部分を削除して乙45号証に掲載した。この個性的な一文は、育鵬社によって「全国統一をなしとげ、意気さかんだった秀吉は」という形で模倣されているから、極めて悪質な削除である。

  出鱈目な単元名、小見出しの勝手な削除

 このように比較対照表の文章を勝手に改竄した被告側は、もっと悪質なことを行った。原告は著作権侵害を指摘する際、扶桑社版と育鵬社版の文章自体とともに、単元名と小見出しを掲載した。ところが、乙45号証には、単元名は入っているが、小見出し名は省略されている。他社の教科書についても、同様である。

 しかも、単元名が出鱈目過ぎる。多くの場合,表題と副題のうち副題を入れているが,何れかにするとすれば表題を入れるべきであり,できれば両者とも記載すべきであろう。さらには、その単元名の間違いが多々存在するのである。例えば、単元名を節タイトルと取り違えて記載したりしているし、「(1)縄文時代」の例では、平成17年版の帝国書院について【稲作による生活の変化】という単元名を【縄文時代のくらし】とし,同13年版の清水書院については,【日本列島の成立と狩猟・採集の生活】という単元名を【日本列島でくらす人びと】としている。

 単元名の間違いはいいとしても、小見出し名の省略は大問題である。小見出しには、その教科書の特徴が端的に表されていることが多い。例えば,「(17)南蛮貿易とキリシタン大名」のケースで言えば、「南蛮貿易とキリシタン大名」という小見出しは,唯一,扶桑社だけにみられるものである。この小見出しは、南蛮貿易とキリシタン大名との結びつきを重視する【表現の視点】(すなわち「思想・感情」)を端的に表現したものである。実際、扶桑社版の文章を読んでみても、他社よりもはるかに両者の結びつきが読み取れるものに仕上がっている。

 また,「(20)秀吉の朝鮮出兵」のケースでも、被告側は、他社の「朝鮮侵略」という小見出しを隠した。これに対して扶桑社の小見出しは「朝鮮への出兵」というものである。一審判決は「秀吉の朝鮮出兵について「侵略」との語が適切でないとの「表現の視点」は,著者の歴史認識若しくは制作意図にすぎず,それ自体は著作権法で保護されるべき表現には当たらない。」と言う。
 しかし,各社の小見出しに注目する時,扶桑社が教科書にとって一般的な「朝鮮侵略」ではなく,「朝鮮への出兵」という小見出しを採用したことは,端的に,上記「表現の視点」を表現していると言うべきである。育鵬社らは,この【表現の視点】を著した小見出しを隠していたのである。何とも卑怯な振る舞いというべきである。

 文章の中抜き等による削除

  次に問題となるのは,比較のためには当然に必要な文章を故意に削除していることである。当の扶桑社版と育鵬社版さえも勝手に文章を付加したり削除したりした被告側は、他社の教科書については、平気で,削除してはならない文章を多数削除している。そもそも全体的に《中略》と表記された部分が多すぎるが,それ以外にも多数の部分を中抜きしている。当然に入れるべき出だし部分が省略されている例が数多いが,中には最後のまとめ部分が削除されている例もある。

  ここでは、「(28)第一次世界大戦」のケースを見よう。乙45号を見ると,平成8年版の大阪書籍や日本書籍,平成8年版と同13年版の日本文教出版など,多くの教科書の出だしが唐突である。一体どうなっているのかと思い、各教科書本体と照合してみると,当然に入れるべき文章が削除されていたことが判明した。例えば、平成8年版の大阪書籍を見ると、出だしは「19世紀の末からヨーロッパの強国は、競って帝国主義の政策をとりはじめました。」という部分である。更に驚いたことに、ここでは扶桑社版の出だしである「日露戦争後、ロシアは東アジアでの南下政策をあきらめ、ふたたびヨーロッパへの進出をはかった。そのため、」の部分が削除されていた。被告側は、大阪書籍の「帝国主義の政策」という言い方と扶桑社の「南下政策」という言い方の差異があからさまになることを恐れて、削除したのであろう。

  だが、最も悪質な削除は、平成13年版の日本文教出版の例である。乙45によれば,平成13年版の日本文教出版の出だしは、「夫妻はセルビアの青年によって暗殺され、1か月後に、第一次世界大戦がはじまった。」というものである。これを読んだ時、夫妻とは誰なのかと疑問に思ってしまった。そこで、教科書本体を見ると,その書き出しは,「上の写真は,1914年に,バルカン半島のサラエボを訪問したオーストリア皇太子夫妻である。夫妻はセルビアの青年によって暗殺され」というものだった。この書き出しは、個性的な表現方法を採用しており、「教科書の記述は皆ありふれたものである」とする被告側の主張に反するから、削除したのであろう。

 平成17年版の日本書籍新社等3社の削除


 最後に問題にすべきは、本来当然に入れるべき他社の教科書記述が省略されているのに対し、逆に入れてはいけない教科書記述が入れられていることである。乙45には、前述のように、扶桑社と育鵬社以外に、平成8年版と同13年版の東京書籍,帝国書院,教育出版,大阪書籍,日本書籍,日本文教出版,清水書院の7社,平成17年版と同23年版の東京書籍,帝国書院,教育出版,日本文教出版(倒産した旧大阪書籍の教科書を出版)の4社の記述が掲載されている。

 ここでおかしなことが二点ある。一は、なぜ、平成17年版について、一部の教科書だけを掲載するのかということである。平成8年版や同13年版と同じく、17年版についても、東京書籍等の4社に加えて、日本書籍新社(日本書籍の後継),日本文教出版,清水書院の三社も掲載すべきであろう。特に、平成17年版教科書の採択戦が行われた当時、扶桑社版と最も激しく対立した日本書籍新社を省略したことは問題である。どの教科書記述も【事項の選択・配列】は似ており、文章も似ていると主張するためには、日本書籍新社の記述は邪魔だったのであろう。

 二は、育鵬社以外の平成23年版は、一審で被告側が焦点とした17年版の扶桑社版の創作性を判断する上ではむしろ有害であり,入れるべきではないということである。一審判決は、「(34)リットン調査団」の項目について平成17年扶桑社版の創作性を否定するに際して、扶桑社と育鵬社が共に選択した「リットン調査団が満州の日本人の権益がおびやかされていたことを認めたこと」という事項は,平成23年版の教育出版にも取り上げられているのだから、扶桑社の【事項の選択】は創作性のないものだと判示した。しかし,平成17年版の原告書籍の著作物性を判定する場合に、後の同23年版の記述を持ち出すことは不公正である。こういう不公正を招き入れることになるから、他社の平成23年版は入れるべきではなかったと強く主張しておきたい。

 ともあれ、乙45号証は、極めて不公正な作られ方をしたものだということを強く主張しておこう。次回は、もう少し具体的に、乙45号の不公正さを指摘していこう。

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