被告の主張--○○氏が執筆し、伊藤・八木氏ら執筆者はチェックしただけ

 前回の記事では、現実には自分が執筆したと主張する○○氏の陳述書を紹介し、検討した。今回は、被告である育鵬社等3者の主張を紹介し、検討していく。

 平成25年12月12日付被告準備書面

  さて、育鵬社等4者は、平成25年12月12日付の準備書面2で、育鵬社歴史教科書の作成方法について弁明を行い、扶桑社版の本文を流用してはいないと主張した。原告は訴状の中で「被告扶桑社が被侵害書籍の本文データを保有していたものであることを奇貨として、……教科書改善の会において行った上記声明とは裏腹に、被侵害書籍の本文記述を流用することを企てた」と主張したのだが、それに対する反論を行ったのだ。準備書面2を見ると、「第3 育鵬社版書籍が、扶桑社版書籍のデータを用いて作成された事実はないこと」の見出しの下、乙第42号(○○氏の陳述書)を証拠として、次のように○○氏が一から新しく原稿を作成したと述べている。

  被告育鵬社は、被告扶桑社が原告らから改訂版書籍の著作権に関する訴訟を提起された(結果は被告扶桑社の勝訴。甲5)ことから、教科書本文部分については、全面書き換えすることとし(傍線部は引用者、以下同じ)、草稿を作成することになった○○氏(以下「○○氏」とう。)には、一から本文部分を記述してもらうよう依頼した。

 ○○氏は、まず各社教科書の本文記述に目を通し、大まかな内容と重要語句、分量を把握した上、一から文章を「一太郎」のソフトを用いて入力するという方法をとった。執筆にあたっては、これまで長年同氏が授業で行ってきた展開方法や自作の予習プリント、板書図などをベースとして、その上で他社の教科書記述を参考にしながら、教科書にふさわしいものとなるよう文章を紡いでいったものである。その間、被告育鵬社は、○○氏に対し、改訂版書籍のデータ等、執筆の補助となる材料の提供は一切していない(以上につき乙42)。

 したがって、育鵬社書籍が、扶桑社版書籍のデータを用いて作成された事実は全く存在しない。育鵬社書籍が扶桑社書籍の盗作であるなどとう原告の主張は、原告の邪推から生まれた事実無根の主張である。


 育鵬社等の主張は、○○氏の陳述書通りである。ここでも確認されるのは、○○氏が二度にわたって他社教科書に目を通し影響を受けていることである。二度目の段階では、他社の記述を丸写しすることも行っているのである。電子データを流用していないとしても、紙のデータ(教科書本文又はカード化した本文記述)、あるいは自分で「一太郎」に打ちこんだ他社記述の本文データを流用して教科書執筆を行っていたのである。

 
  「編集会議の座長」の弁明――歴史的事実の一般的見解を時系列に沿って記しただけ

  裁判は、もっぱら育鵬社版と共通する扶桑社版の教科書記述が創作性のあるものかどうかをめぐって争われたため、執筆方法に関する問題にはそれほど焦点が当たらなかった。それでも、原告側は平成26年9月5日付で「求釈明書」を提出し、被告三氏の育鵬社歴史教科書との関わりについて、一問一答式の質問を行った。「執筆者」として名前を連ねている二氏の弁明を紹介していこう。

 まず「編集会議の座長でした」と回答した被告の平成26年9月11日付陳述書から見よう。その回答を全文掲げるならば、次のようになる。名前を記さずとも誰かはすぐに分かるだろうが、現実の執筆者については○○氏と言う形で表わしたから、同じ形をとることにする。

1 被告書籍制作過程における被告△△の役割は何か。
 【回答1】執筆者の一人であり、編集会議の座長でした。

2 編集会議において、被告書籍本文が原告書籍に酷似していることが問題になったことはあるのか。
 【回答2】ありませんでした。

3 2について「ない」として、編集会議の過程では気付かなかったということか。
 【回答3】気付かなかったということではなく、問題とならなかったということです。

4 2について「ない」として、被告書籍検定合格後に原告側から著作権侵害の指摘を受けて初めて(酷似の事実を)認識したというのか。
 【回答4】その時点で、原告側がそのような主張をしていることを認識しました。

5 上記指摘を受けて執筆者らの間でどのような議論がされたのか。
 【回答5】特に議論はしていません。指摘を受けた場所は、いずれも歴史的事実に基づく一般的見解を時系列にそって記述しているにすぎず、原告の主張する著作権侵害には当たらない、との認識でした


 回答1を見ると、平成25年6月5日付の育鵬社等4者の答弁書は△△氏が執筆者代表であることを否定したが、△△氏自身は否定も肯定もせず、ただ「執筆者の一人であり、編集会議の座長でした」とだけ答えた。これは、実質的に執筆者代表を認めた発言と言える。少なくとも、著作権侵害と判断されれば、その責任から逃げる気はないということであろう。

  しかし、回答5はいただけない。日本を代表するような歴史学者の言葉とは思えない発言である。回答は、育鵬社が「つくる会」との交渉過程で述べていたことの繰り返しに過ぎない。歴史教科書というものは、原則的に「歴史的事実に基づく一般的見解を時系列にそって記述」するものである。こんなことを言ったら、歴史教科書の著作権は否定されてしまうことになろう。

  更に言えば、本当に、氏は、育鵬社版や扶桑社版の記述が、「いずれも歴史的事実に基づく一般的見解を時系列にそって記述しているにすぎ」ないものであり、著作権で保護される記述ではないと考えているのだろうか。では、何故、歴史教科書問題が発生したのか。なぜ、氏や藤岡氏らは、あれほど左翼や中韓から叩かれたのか、その説明はどのようにされるのであろうか。

  また、一般的見解とは何かと考えると、論者によって意見は分かれる。少数派の見解であっても左翼的見解ならば教科書に掲載されることはよくある事実であるし、逆に、いわゆる保守派が一般的見解であると考える(そして本当に一般的見解である)記述が、検定と採択を通じて退けられてきたのも又厳然たる事実である。だからこそ、歴史教科書問題が発生してきたのである。△△氏は、歴史教科書問題の存在を否定するつもりであろうか。

 また、本当に誰もが一般的見解であると認める事柄でもその表現の仕方は多様であるし、個性を示す表現は当然に著作権で保護されるべきではないか。

  もう一人の「執筆者」被告の弁明――○○氏が書き、私はチェックしただけ 

  「編集会議の座長」氏の陳述に対する論評はこれぐらいにして、もう一人の「執筆者」被告▽▽氏の陳述書を検討していきたい。もう一人は、二度、陳述書を提出している。一度目の7月20日付陳述書の関連部分を先ず引用しよう。 

              
                                  
 育鵬社の歴史教科書が、扶桑社版教科書の記述を流用したという事実はありません。

 育鵬社の歴史教科書の原稿素案は、実際に教科書を使う中学生が理解しやすい文章表現となるよう、現場感覚のある中学校の教員に書いてもらおうとの育鵬社編集部の意向があり、それに該当する○○氏(以下「○○氏」といいます。)により全く新しく執筆がなされたものです。○○氏には、扶桑社版の歴史教科書の本文データも渡されていません。

 ○○氏の作成した原稿素案をたたき台として、編集会議において議論がなされ、各編集委員から問題点の指摘や改善への提案が行われ、育鵬社編集部が中心となって、執筆者や監修者の意見を集約し、修正が重ねられていったのであり、原告から非難されるいわれは何らありません。

 私自身の育鵬社の歴史教科書への関わりとしては、執筆者・監修者として、改善のための意見を述べたり、具体的な修正提案を行ったりしたことであり、それ以上でも以下でもありません。他の編集委員、執筆者・監修者の関わり方と同じです。

  また、原告は、私が、育鵬社の歴史教科書が「大々的な著作権侵害によって制作されていることを知りながら、採択の活動を行った」と主張しています。私が採択活動に協力したのは事実ですが、そもそも著作権侵害がない以上、何ら非難される点はないと思います


 上記のように、▽▽氏も、育鵬社や○○氏自身と同じく、○○氏が執筆したと主張している。そして自分は、他の執筆者・監修者と同じく、○○氏の原稿をチェックしただけだと述べるのである。

 次いで、2度目の平成26年9月11日付陳述書を全文引用しよう。この陳述書は、原告側の平成26年9月5日付「求釈明書」に対する回答である。



                                  丙第2号証

平成26年9月11日

               陳述書
                          
                              ▽▽  印
              
     
1 被告▽▽は「申し入れ書」(甲22)では被告書籍本文原案は育鵬社編集部が用意したと言い、陳述書1(丙1)では○○が原案執筆したと言っているが、どちらが正しいのか。
【回答1】どちらも正しいです。陳述書1で述べましたように、現場感覚のある中学校の教員に書いてもらおうとの編集部の意向にもとづいて○○氏が執筆し、それを編集部がチェックしたうえで原稿素案として編集会議に提示したのです

2 1で「○○が原案を執筆した」として、何故上記「申し入れ書」では被告育鵬社の責任と主張したのか。
【回答2】上記の【回答1】によります。また,そもそも、「申し入れ書」(甲22)は本件の対応について育鵬社に対して個人的に意見を述べたものであり、事実・経緯の詳細に留意したものではありません。

3 編集会議において、被告書籍本文が原告書籍に酷似していることが問題になったことはあるのか。
【回答3】ありませんでした。

4 3について「ない」として、編集会議では気付かなかったということか。
【回答4】気付かなかったということではなく、問題とならなかったということです。

5 3について「ない」として、被告書籍検定合格後に原告側から著作権侵害の指摘を受けて初めて(酷似の事実を)認識したというのか。
【回答5】指摘を受けて初めて、原告側が問題にしているということを認識しました。

6 上記指摘を受けて執筆者らの間でどのような議論がなされたのか。
【回答6】原告側の指摘が間違っているので、特に議論はしていません。
 

 ○○氏に責任を押し付けた被告たち

 以上、2回にわたって、現実に執筆したとされる○○氏、育鵬社、「編集会議座長」の被告△△氏、もう人の「執筆者」被告▽▽氏の弁明を見てきた。四者とも一致しているのは、教科書の奧付に名前を記している「執筆者」「監修者」は、ほとんど誰も教科書を現実には書いていないということだ。これが、教科書作成過程について分かった第一の事実である。

  また、△△氏以外の三者の弁明で一致しているのが、現実に執筆したのは○○氏という中学校教員だということである。

  ○○氏が多くを執筆したのは事実であろうし、ほとんどの「執筆者」「監修者」が実は執筆していないというのも事実であろう。しかし、私は、前回記事で記したように、○○氏以外に現実に執筆を担当した人物が最低一人はいると感じている。いや、2人と判断した方が良いかもしれない。もう一人の現実の「盗作者」と、まともに自分の頭で執筆した陰の執筆者である。

  それはともかく、育鵬社等の準備書面2を読んだ時、私は非常に嫌な感じがした。育鵬社等被告5者は、敗訴した場合に備えて、責任を○○氏に押しつける作戦に出たのではないかと感じた。

  この推測が当たっているかどうかは確言できない。しかし、○○氏が、盗作であっても120本もの原稿を1人で仕上げたなどとは信じられないし、何よりも4章を○○氏が書いたとは到底信じられない。要するに、○○氏の言うことを信用できないのである。氏は、育鵬社等に、陳述書のように言わされているのではないだろうか。



 
 
 

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

ナイス

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック