不当判決糾弾――歴史教科書はコピペで作っても構わないのか、検定制度は崩壊する、転載歓迎

  歴史教科書の単元本文の著作権を否定した不当判決


 今回の一連の政治の流れを見ていて、嫌な感じがしていたが、案の定、平成26年12月19日、東京地裁は、不当判決を下した。昨年4月15日、『改訂版 新しい歴史教科書』(扶桑社版、平成16年度検定、18~23年度使用)の代表執筆者である藤岡信勝氏は、伊藤隆・八木秀次他『新しい日本の歴史』(育鵬社、平成22年度検定、24~27年度使用)の記述が、『改訂版 新しい歴史教科書』の記述を流用し、藤岡氏の著作権を侵害しているとして東京地裁に訴えた。だが、昨日19日、原告の請求は全て棄却された。

 原告敗訴の理由は、要するに、歴史教科書というのは学習指導要領などで書く内容が制約されており、選択の幅が狭いから、著作物性が極めて薄いというものである。とはいっても、抽象的には歴史教科書の著作権を否定してはいないが、我々が著作権侵害であると指摘した47箇所全てについて、扶桑社版教科書の著作物性を否定したのである。

 これは、事実上、歴史教科書の単元本文には著作物性は認められない、著作権は存在しないと言っているに等しい。判決は、形の上では47箇所の著作物性だけを否定した。教科書本文全体の著作物性を否定したわけではない。しかし、47箇所とそれ以外の箇所では、書き方の点で全く違いはない。しかも更に詳しく説明すれば、47箇所の総頁数は扶桑社版の単元本文164頁のうち50数頁にも及ぶ。しかも、1単元2頁のうち1頁強も盗まれているケースもあり、1単元のうちに2箇所以上盗作された箇所もある。

  最もひどい場合には、ほとんど単元本文全体が育鵬社に盗まれているケースさえもある(例えば単元4「稲作の広まりと弥生文化」、単元79「占領政策の転換と独立の回復」)。こういう単元の場合には、判決の立場からすれば、1つの単元本文全体の著作物性を否定しなければならなくなる。だが、平成21年8月25日東京地裁判決(『新しい歴史教科書』をめぐる前回判決)によれば、一つ一つの単元本文は一個の独立した著作物であり著作権が認められている。にもかかわらず、今回の判決は、扶桑社版の単元4や単元79の著作権さえも否定してしまったのである。

 したがって、今回の判決は、少なくとも単元本文の著作権を全面否定したものと見るしかないのである。

 今回の判決が確定すれば、歴史教科書はコピペで作れることになる 

  今回の判決が確定すれば、どうなるか。今後は、育鵬社がしたように、歴史教科書は、自由に他社の教科書から歴史認識や考え方だけではなく、文章もそのまま盗んでも著作権侵害ではないということになっていくだろう。盗作ではあるが著作権侵害ではないというケースが多数出てくるであろう。

  実際、育鵬社は、昨年1月から2月にかけての「つくる会」との交渉の中で、他社から文章をそのままつまみ食いして持ってきても構わない旨の発言をしていた。今回の訴訟でも、47箇所についての類似性は認めてしまったうえで、類似しているけれども扶桑社版の記述には著作物性がないから問題ないと言う論理を繰り広げてきた。裁判所は、この育鵬社側のデタラメな主張を受け入れてしまったのである。そして、中には1頁強(600字強)もある酷似した文章について著作権侵害を認めなかったのである。いや、それどころではない。育鵬社の単元4「稲作・弥生文化と邪馬台国」は、3頁存在するが、そのほとんどが扶桑社版からの盗作によって作られているのである。

 今後は、コピペどころか、複製で教科書が作られていくことになるかもしれない。複製は大げさだとしても、大っぴらにコピペで作っても許されることになっていくだろう。モラルハザードが進行することになろう。

  事は教科書の事柄である。コピペで作られた教科書で教育される生徒は可哀そうである。そういう教科書を違法としなかった判決はトンデモないというべきであろう。
 

 教科書本文の著作権を保護しなければ検定制度は崩れる 

  以上、今回の判決についてとりあえずの論評を加えてきたが、最後に強く主張しておきたい。検定制度下の公正で自由な競争を保証するためには、教科書の著作物性、とりわけその中心である単元本文の著作物性を認め、著作権法で保護しなければならないということを。

  我々が指摘した47カ所は全て単元本文の箇所であり、全体の3分の1にものぼる分量である。このような教科書の中心部分である単元本文にさえも著作権を認めないとしたら、教科書づくりはどうなっていくだろうか。

  今回の判決のように、これだけ多くの箇所で育鵬社に模倣されてしまった扶桑社教科書の単元本文に関する著作権を否定するならば、誰も、教科書執筆のために学説研究に時間をかけたり、文章執筆に頭を悩ませたりしなくなるだろう。教科書作成のインセンティブが与えられなくなるであろう。

  その結果、少なくとも単元本文は、各社教科書が極めて類似したものになっていき、指導要領の範囲内で多様な教科書が競い合うことを前提につくられた検定制度が崩れていくことになろう。そればかりか、教科書の質も当然に低下していくことになろう。ひいては、日本の文化が崩れていくことにもなりかねないであろう。私は、非常にそのことを恐れる。

 知的財産権の秩序の崩壊が予測される

  更に強く主張したいのは、育鵬社歴史教科書盗作事件は、決して単なる教科書問題ではないということである。日本の知的財産権をめぐる法秩序全体に関わる問題である。育鵬社などは、前回判決で、扶桑社版教科書の著作物性と藤岡氏ら「つくる会」側の著者の著作権が認められたにも関わらず、藤岡氏らの許可を得ずに、『新しい歴史教科書』をリライトする形で『新しい日本の歴史』83単元のうち44単元をつくった。こんなことをすれば著作権侵害になることを十分に承知していたから、一から新しく起稿すると約束していたにもかかわらず、そうしたのである。

 実に、単元本文167頁のうち50数頁が、盗作でつくられている。また、盗作に関与した人間は、少なく見積もっても10人は超えるだろう。今回の判決のように、こんな大規模な盗作を許してしまったならば、いかなる盗作もし放題ということになろう。ひいては、日本の知的財産権をめぐる法秩序全体を崩壊させていくことになろう。また、育鵬社等による悪質な盗作を国内で許しているようであれば、中国や韓国による知的財産権の侵害を批判できなくなるであろう。

 今回の判決は、日本の知的財産権をめぐる法秩序全体を破壊したという意味でも不当判決と言えよう。



 

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