『新しい公民教科書』検定過程について(6)―――国家論1、国家の役割

  今回から個別論点について順番に見ていくこととするが、最初に、「国家にかかわる国民の4つの立場」を含む国家論関係をめぐる調査官と我々との違いについて述べていきたい。
 
   「国家の第1 の役割は、外敵からの防衛です」――教科書記述

  最も大きな違いは、国家の役割として何を重視するかをめぐる対立である。『新しい公民教科書』の検定申請本は、古代における国家成立を基に、単元13「国家の成立とその役割」下、「国家の役割」の小見出し下、次のように記していた。

  歴史をふり返ると、国家の第1 の役割は、外敵からの防衛です。第2 の役割は、法を制定し、法に基づき社会秩序を維持し、国内に平和をもたらすことです。さらに第3 の役割は、土木工事などを行い、生産と生活の基盤すなわち社会資本の整備を行って、公共の福祉を増進することにあります。(39頁)  

 そして、近代国家の成立に焦点を合せて、単元14「立憲主義の誕生」下、「民主主義と国民国家」の小見出し下、次のように述べていた。

   結局、国民国家はそれまでの国家の役割である、防衛と社会秩序の維持と公共の福祉のほかに、国民の権利の保障を第4 の役割として取り入れたことになります。(41頁)   

 「第1 の役割」といった書き方をするな

  これに対して、意見番号30番として、「国家とその役割について、誤解するおそれのある表現である」との検定意見が付いた。12月6日の検定意見の言い渡しの際、調査官は、国家の第一の役割は権利保障なのだから、「国家の第1 の役割は、外敵からの防衛です」といった書き方はよろしくないと言った。こちらとしては、国家の成立過程をふまえて歴史的順序としてみれば、明らかに防衛が最初であり、最後に近代になって権利保障が国家の役割として加わったわけだから、上記の様に記したわけである。必ずしも役割としての重要性にこだわって上記のように書いたわけではなかったのだが、随分、過剰な反応をするなと思ったことを覚えている。 
 
 12月6日は検定意見を聞くのが主であったし、12月20日は立憲主義に関するこちらからの説明が主であったので、国家の役割をめぐる目立った論争はなかった。しかし、1月17日提出の「修正表」準備のために行われた1月12日の質疑応答では、激烈な論争が行われたようである。

調査官 第1、第2、第3、第4、という序列があると、それが重要性が1番、2番、3番、4番というように・・・

執筆者  これは譲れないんです。この教科書の(最初の「この教科書の使い方」のところで出ていますが、この教科書では段階を踏んで国家のことを理解させるということになっているんですね。
 最初のときは防衛と治安をいい、それから国家が発展していくことを前提にして、3回か4回かに分けて説明しているんです。ここでは追加して国家の機能を増やしていくというところだ。歴史的な厳密な順序からは外れている可能性は多少はあります。しかし、子供たちに論理を学ばさなければいけない。そのためいっぺんに国家のことをあれこれと説明するよりも、段階を追ってやるということであり、この説明の仕方は譲れないんです。


調査官  最初のところに「歴史をふり返ると」とあるから、そういう意図で書かれているということは分かるんですが、やはり第1から第4として、人権を保障というのが4番目にくるのは・・・

執筆者  しかし、歴史的に国家として発達して、国民に対して人権を保障したのはいちばん最後です。この表記は譲れないんです。

  しかし、調査官にとっては、やはり、「国家の第1 の役割は、外敵からの防衛です」という記述は許せなかったようである。1月25日、1月17日に「修正表」を提出した後、「修正表」が妥当であるかどうか調査官の意見を聴くために、執筆者側は文科省に行った。ここでも、調査官は、順番にこだわって、次のように述べている。

   歴史的な経緯に照らして第1、第2、第3という大切さということはよく分かったんですが、やはり、このように1、2、3、4の数字があると重要性(または)価値の序列のように見えてしまうというのと、いちばん公民学習として大切となる国民の権利保障というのが、第4として記述箇所が離れている。39頁に1、2、3と出てきて、41頁に2頁飛んで4として出てきており、それが分かりづらいと思うんです。ここのところ書き方を工夫してもらえたらと思うんです。 

  第1、第2といった書き方をやめる
 
   調査官の意思が固いことを知った我々は、2月21日に提出した再「修正表」では、次のように記述を変更した。まず、単元13の部分は、次のようにした。

   歴史をふり返ると、外敵からの防衛は国家の重要な役割でした。また、道路や橋の建設など、土木工事などを行って、生産と生活の基盤となる社会資本の整備を図ること、そして法を制定し、法に基づき社会秩序を維持し、国内に平和をもたらすことも、国家の重要な役割です。(39頁) 

  そして、単元14の部分は次のように修正した。

  結局、国民国家はそれまでの国家の役割である、防衛と社会資本の整備と社会秩序の維持とともに、国民一人ひとりの権利の保障を新たな役割として取り入れたことになります。(41頁) 

   上記記述が、そのまま検定合格本のそれとなった。ともかく、調査官は、「国家の第1 の役割は、外敵からの防衛です」という記述を何としてもさせないということに、随分エネルギーを割いていたのである。

   国家をめぐっては、更にいろいろな単元の記述をめぐって、我々と調査官は対立した。その報告は次回にまわすことにする。



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この記事へのコメント

okusama
2012年09月20日 15:15
なるほど、国家の役割に対する価値観を持ち込んではいけないということなのですね。
調査官の考えでしょうか。

こんないきさつがあったとは・・・・。

このやり取りの再現はとても有意義ですね。

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