育鵬社による盗作の全体像

  これまで18回(実質19回)にわたって、育鵬社による盗作の検証を行ってきた。今回は、育鵬社による盗作の全体像を示しておきたい。
  これまで何度も述べてきたように、平成21年8月25日東京地裁判決から知られるように、改善の会系知識人は『新しい歴史教科書』作成にほとんど尽力していない。『新しい歴史教科書』は「つくる会」側著者が主導して作ったものである。そして、判決は、教科書の主要部分に「つくる会」側の著作権を認めている。扶桑社教科書の単元82中75個、即ち「14 飛鳥・天平の文化」「17 平安の文化」「21 鎌倉の文化」「25 室町の文化」「31 桃山文化」「41 化政文化」「61 明治文化の花開く」の7つ以外に、そして、目次に登場するコラム29個中23個に、藤岡氏らの著作権を認めたのである。
  
  2011/11/03 01:28
  平成21年8月25日東京地裁判決から分かること、その1
   http://tamatsunemi.at.webry.info/201110/article_7.html

  2011/11/03 01:28
  平成21年8月25日東京地裁判決から分かること、その4
   http://tamatsunemi.at.webry.info/201111/article_4.html

 


  一、明治以外は、基本的に「つくる会」側著者の原稿をリライトして作った

  そこで、単元本文(側注を含む)とコラムについて検証してきたが、コラムは基本的に自力で書いており、盗作問題は発生しないことがわかった。それに対して、単元本文の方は、多くの単元、すべての時代の記述に於いて盗作箇所が見付かった。箇条書きで要点を示しておくと以下のようになる。
     
 ①単元構成は、特に近代以降はそっくり
 ②著作権問題の発生しようのないもの(元の原稿の著作権が改善の会側にあるため、或いは指導要領の改訂等に伴い全く新設された単元であるため)……83単元中10単元
    単元7、10、14、18、23、28、40、59、76、82……全て文化史。
 ③扶桑社版に依拠せず、今回自力で書いたと思われるもの……73単元中29単元
   古代は、11(14)単元中3単元
   中世は、7(9)単元中2単元
   近世は、16(18)単元中4単元
   近代は、17(18)単元中14単元
   大戦期、16(17)単元中4単元
   現代は、6(7)単元中2単元
 ④「つくる会」側著者の原稿をリライトしてつくったと思われるもの……44単元
    近代以外は、基本的に「つくる会」側著者の原稿をリライトして作った。
   古代は、11(14)単元中8単元
   中世は、7(9)単元中5単元
   近世は、16(18)単元中12単元
   近代は、17(18)単元中3単元
   大戦期、16(17)単元中12単元
   現代は、6(7)単元中4単元
 ⑤盗作乃至盗作疑惑箇所は47(49)箇所
   古代は、10箇所
   中世は、3箇所
   近世は、11箇所
   近代は、2箇所
   大戦期は、16箇所
   現代は、5箇所

  要するに、育鵬社歴史教科書とは、明治時代以外については基本的に「つくる会」側著者の原稿をリライトして作った丸ごと盗作教科書なのである。


    単元別リライト・盗作の識別表   
注意点
 ①一番左の算数字は単元番号
②左側の○×記号は、依拠性の有無(扶桑社版のうち藤岡氏らが著作権を持つ部分をリライトしたものかどうか)を示す。○は明確に依拠している、×は依拠していない、△は多少依拠している、という意味。
③右側の○×記号は、類似性の有無を指す。○は盗作と言える類似性、△はそこまで言えるかわからない類似性、×は盗作と言える類似性は存在しない、という意味。
④-の記号は、著作権問題の発生しようのない(元の原稿の著作権が改善の会側にあるため、或いは指導要領の改訂等に伴い全く新設された単元であるため)単元を指す
⑤一番右側は、単元名を表す。


第1章 原始と古代の日本
1 ○ △ 日本列島ができたころの人々
2 ○ ○ 豊かな自然と縄文文化
3 × × 文明のおこりと中国の古代文明
4 ○ ○ 稲作・弥生文化と邪馬台国
5 ○ ○ 古墳の広まりと大和朝廷
6 × × 大和朝廷と東アジア
7 - - 世界の宗教と日本
8 △ × 聖徳太子の国づくり
9 ○ ○ 大化の改新と激動の東アジア
10 - - 飛鳥文化・白鳳文化と遣唐使
11 × × 大宝律令と平城京
12 ○ ○ 天平文化
13 ○ ○ 平安京と摂関政治
14 - - 新しい仏教と国風文化

第2章 中世の日本
15 ○ ○ 武士の登場と院政
16 ○ ○ 武士の世の到来と鎌倉幕府
17 × × 幕府政治の展開と人々の暮らし
18 - - 新しい仏教と武士の文化
19 × × 元寇と鎌倉幕府のおとろえ
20 ○ △ 建武の新政と南北朝の動乱
21 ○ △ 室町幕府と東アジア
22 ○ △ 戦国時代と人々の暮らし
23 - - 室町時代の文化

第3章 近世の日本
24 × × ヨーロッパ人の世界進出
25 ○ ○ ヨーロッパ人の来航
26 ○ ○ 織田信長と豊臣秀吉の全国統一
27 ○ ○ 豊臣秀吉の政治と外交
28 - - 雄大で豪華な桃山文化
29 ○ △ 江戸幕府の成立
30 × × 「鎖国」への道
31 △ × 「鎖国」のもとの4つの窓口
32 ○ ○ 身分制度の確立
33 ○ × 綱吉の文治政治と元禄文化
34 ○ ○ 新田の開発と産業・交通の発達
35 × × 藩校と寺子屋
36 ○ △ 吉宗と享保の改革
37 ○ ○ 田沼の政治と寛政の改革
38 ○ ○ 欧米諸国の接近
39 × × 天保の改革と諸藩の改革
40 - - 江戸の町人文化
41 ○ ○ 新しい学問と思想の動き

第4章 近代の日本と世界
42 × × 欧米の市民革命・産業革命
43 × × 欧米列強のアジア進出
44 ○ × 黒船来航の衝撃
45 ○ ○ 尊王攘夷と江戸幕府の滅亡
46 ○ ○ 五箇条の御誓文と明治維新
47 × × 新しい国づくりへの道
48 × × 学制・兵制・税制の改革
49 × × 明治初期の外交と国境画定
50 × × 岩倉使節団と西南戦争
51 × × 殖産興業と文明開化
52 × × 国会開設へ向けて・自由民権運動
53 × × 大日本帝国憲法の制定と帝国議会
54 × × 不平等条約の改正への努力
55 × × 朝鮮半島と日清戦争
56 × × ロシアとの激突・日露戦争
57 × × 国際的地位の向上と韓国併合
58 × × 日本の産業革命と国民生活の変化
59 - - 西洋文化と明治の文化

第5章 二度の世界大戦と日本
60 ○ ○ 第一次世界大戦
61 × × ロシア革命と第一次世界大戦の終結
62 ○ ○ ベルサイユ条約と国際協調の動き
63 ○ △ 大正デモクラシーと政党政治
64 ○ ○ ワシントン会議と日米関係
65 × × 文化の大衆化・大正の文化
66 × × 世界恐慌と協調外交の行き詰まり
67 × × 共産主義とファシズムの台頭
68 ○ ○ 中国の排日運動と満州事変
69 ○ ○ 日中戦争(支那事変)
70 ○ ○ 緊迫する日米関係
71 ○ ○ 第二次世界大戦
72 ○ ○ 太平洋戦争(大東亜戦争)
73 ○ ○ 日本軍の進出とアジア諸国
74 ○ ○ 戦時下の暮らし
75 ○ ○ 戦争の終結
76 - - 戦前・戦中の昭和の文化

第6章 現代の日本と世界
77 × × 占領下の日本と日本国憲法
78 ○ ○ 朝鮮戦争と日本の独立回復
79 ○ ○ 冷戦と日本
80 × × 世界の奇跡・高度経済成長 
81 ○ ○ 冷戦と昭和時代の終わり
82 - - 戦後と現代の文化
83 ○ ○ 冷戦の終結と日本の役割  



二、盗作の例
  
  もう一度、盗作の例を一件だけ挙げておこう。フェートン号事件・モリソン号事件である。この部分は、単元名と小見出し名からして、全く同一である。比較されたい。

■フェートン号事件・モリソン号事件

○扶桑社
単元40「欧米諸国の接近」下、「イギリス・アメリカの接近」の小見出し下、
「19世紀に入ると、イギリスとアメリカの船も、しばしば日本の近海に出没するようになった。1808(文化5)年、イギリスの軍艦フェートン号が長崎港に侵入し、当時対立していたオランダの長崎商館の引き渡しを求め、オランダ人2人をとらえるなどの乱暴をはたらいた(フェートン号事件)。このように、日本はヨーロッパの国際情勢の変化に影響されるようになった。
  いっぽう、北太平洋では、アメリカの捕鯨船の活動がさかんになり、日本の太平洋岸にこれらの船が接近して、水や燃料を求めるようになった。幕府は、1825(文政8)年には、異国打払令を出した。そのため、幕府は、1837(天保8)年、浦賀(神奈川県)に日本の漂流民をとどけにきたアメリカ船モリソン号を砲撃して打ち払った(モリソン号事件)。 
   蘭学者の高野長英や渡辺崋山は、西洋の強大な軍事力を知って、幕府の措置を批判した。しかし、幕府は彼らをきびしく処罰した(蛮社の獄)。」(121頁)


○育鵬社
単元38「欧米諸国の接近」下、「イギリス・アメリカの接近」の小見出し下、
「18世紀末のヨーロッパでは、フランス革命により共和国となったフランスが勢力を強めオランダを征服しました。イギリスはこの機会にオランダの海外拠点をうばおうとして、東アジアへの動きを活発化させました。
  1808(文化5)年には、イギリスのフェートン号が長崎港に侵入し、オランダ商館員を連れ去り、食料をうばうなどの乱暴をはたらくという事件がおこりました(フェートン号事件)。 
   一方、北太平洋では、アメリカの捕鯨活動がさかんになっていました。これらの船は、わが国に接近して、水や燃料の補給を求めるようになりました。これに対し幕府は、海岸防備をかためるとともに、1825(文政8)年には、異国打払令を出して、鎖国政策を守ろうとしました。
  1837(天保8)年、日本人の漂流民を救助して、わが国に送り届けようとしたアメリカ船モリソン号が、異国船打払令によって砲撃される事件がおきました(モリソン号事件)。これに対し、高野長英や渡辺崋山などの蘭学者は、西洋の強大な軍事力を知って、異国船打払令を批判する本を書いたため、幕府は彼らをきびしく処罰しました(蛮社の獄)。」(123頁)


三、盗作の手法

  上記のような盗作を行う場合、目くらましをするために、育鵬社はいろいろな手法を使っている。育鵬社教科書に5か月も付き合っていると、その手法が見えてきた。多く使われている手法を、以下にまとめておこう。

①文字の転換……カタカナ←→平仮名←→漢字

 「(10)秀吉の朝鮮出兵」の箇所    「著しく」→「いちじるく」
 「(11)江戸時代における産業・交通の発達」の箇所
     「カツオ」→「かつお」
     「干鰯」→「干したいわし」
    *「干鰯」は言い換えてはおかしい。こんな変なことをやるところに、リライト担当者が後ろめたさを感じていることがうかがわれる。
     「酒造」→「酒づくり」
 (12)田沼意次の政治」の箇所   「賄賂」→「わいろ」
 「(13)フェートン号事件・モリソン号事件」の箇所   「いっぽう」→「一方」
 「(28)大東亜共栄圏」の部分  「かかげる」→「掲げられる」

②受身形←→能動形

 (14)尊王攘夷運動、安政の大獄の箇所
「長州藩(山口県)の吉田松陰など尊王攘夷派100人あまりに、はげしい弾圧を加えた」
     ↓
「長州(山口県)の吉田松陰や越前(福井県)の橋本佐内など、100人あまりに、激しい弾圧が加えられました」

「井伊直弼は……水戸藩などの浪士たちに暗殺された」
     ↓
「水戸藩などの浪士たちを中心として、……井伊直弼を襲い、暗殺しました」

③言葉の順序を入れ替える

(16)第一次世界大戦の箇所
 「ドイツはすでに、オーストリア、イタリアと三国同盟を結んでいたが」
   ↓
 「オーストリア、イタリアと三国同盟を結んだドイツが」

④文を途中で切る

 例えば、次のように途中で文を切ってしまえば、随分感じが変ってしまうことになる。さらに「ボスニア」「親露的な」を削除し、「この事件」を加えるとかなり目くらましになる。
「1914年、オーストリアの皇太子夫妻が、ボスニアのサラエボで、親露的なセルビアの一青年に暗殺された(サラエボ事件)をきっかけに」
      ↓
「1914年、オーストリアの皇太子夫妻がサラエボでセルビアの青年に暗殺されました(サラエボ事件)。この事件をきっかけに」

⑤言葉の言い換え

(17)日本の参戦と二十一か条要求、の部分
 「中国」→「中華民国政府」
 「日本」→「わが国」
 「二十一か条要求」→「二十一か条の要求」
 「赤道以北の島々」→「ドイツ領の島々」
(22)満州事変の箇所では、「排日運動もはげしくなり」→「排日運動の激化」
        「満州国皇帝の地位」→「その元首の座に」
  *「皇帝」を「元首」にわざわざ言い換えているところに、リライト担当者が後ろめたさを感じていることがうかがわれる

大がかりな言い替えの例
(24)支那事変(日中戦争)・「南京事件」
「二人の日本人将兵が射殺される事件がおき、これをきっかけに」→「日本軍将校殺害をきっかけに」 
(28)大東亜共栄圏の部分
「日本の緒戦の勝利」→「戦争初期のわが国の勝利」
「夢と勇気を」→「希望」
「戦争の名目として」→「戦争の表向きの目的として」

⑥扱う項目の順序を入れ替える

(19)三・一独立運動と五・四運動、の部分で見られる。扶桑社版では三・一独立運動→五・四運動の順序で記しているが、育鵬社版では反対に、五・四運動→三・一独立運動という順序で記している。
(21)関東大震災の部分では、経済への打撃の個所を、朝鮮人殺害よりも前に移動している。

⑦言葉を抜いてつなげていく

(30)創氏改名・徴用の部分では、
扶桑社「戦争末期には、徴兵や徴用が、朝鮮や台湾にも適用され、現地の人々に さまざまな犠牲や苦しみをしいることになった。」
       ↓
育鵬社「戦争末期には、朝鮮や台湾にも徴兵や徴用が適用され、人々に苦しみを強いることになりました。」

  扶桑社の文から傍線が引かれてない部分を削除し、一か所だけ語の順番を入れ替えるとともに、「戦争」と「末期」の間に「の」を入れて、「しいる」を「強いる」に変えれば、育鵬社の文が出来上がることに注目されたい。


  最後に挙げた⑦言葉を抜いてつなげていくという手法、それに④文を途中で切るという手法が、一番基本的なテクニックであり、元の文章とかなりイメージを変える効果をもつと言えよう。

  改めて、育鵬社歴史教科書の執筆者及び支持者に訴える。執筆者及び支持者から降りられよ。でなければ、後世に汚名を残すことになろう。

  さて、私としては、偽物を退治するために、次にできることを考えていくこととしよう。

   2011/12/30 01:58
  育鵬社による著作権侵害の検証対象の確認
   http://tamatsunemi.at.webry.info/201112/article_6.html


  補足 

  昨年の採択戦において、左翼は、育鵬社の教科書が地図等の資料を盗作していると攻撃していた。だが、こういう編集著作権に関わる件については、(仮に育鵬社が盗んでいたとしても)、表現の幅が極めて狭くなるので、デッドコピー乃至デッドコピー的なものでない限り、著作権侵害とは言い切れないことになろう。

  これに対して、単元本文の場合は、圧倒的に表現の幅が広くなるので、地図等の問題とは性格が異なることを指摘しておこう。また、単元本文は教科書の最重要箇所であるから、単元本文の著作権侵害問題は、極めて大きな問題であると言わねばならない。




  


 

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  • 育鵬社に謝罪を勧める手紙

    Excerpt:    2月下旬、育鵬社歴史教科書の執筆者と推薦者に対して降りるように勧める手紙を投函した。だが、誰一人、無反応である。「お前は盗作者だ」と非難したにもかかわらず、弁解・反論する者も怒りを表す者もいない.. Weblog: 「日本国憲法」、公民教科書、歴史教科書 racked: 2012-03-26 17:46