公民教科書改悪の根本原因は学習指導要領に有り--学習指導要領案〔公民的分野〕へのコメント、平成20年

  今回は、公民教科書をめぐる状況が全く改善されないどころか、かえって、家族と地域社会の教育が消えるというマイナス方向に動いてしまった。その原因は、育鵬社などの教科書会社だけにあるのではない。実は、その根本原因は、基本的には学習指導要領自体にあるのだ。 

  平成20年3月、「つくる会」は、新中学校学習指導要領案に対するパブリックコメントを行ったが、公民的分野に関しては私が書いた。私が書いたものは数字などの書き方は変更されているが、内容はほとんどそのままである。以下に、それを掲げておこう。

  この中で、私は、公民的分野に関しては、教育基本法違反の可能性さえあり、指導要領は改悪されていると指摘した。当時、私は、次の教科書では家族と地域社会が消えてしまうのではないか、消えないとしても利益社会論的な家族の捉え方が拡大するのではないかと恐れたことをはっきり覚えている。その恐れは現実のものになった。

  だが、当時、教科書改善の会系「保守」言論人はこぞって指導要領を評価し、批判らしき批判をしなかった。当時、一体どうなっているのだと思った。保守言論界は、当時から(いや「つくる会」分裂の頃から)、明らかにおかしくなってきているのだ(それとも、単に利益社会化という問題に気付かなかっただけかもしれないが。とすれば、それはそれで深刻な問題といえよう)。育鵬社が家族解体につながる家族論を展開してしまう流れが、平成20年当時から存在したのである。


 

    新中学校学習指導要領案の〔公民的分野〕へのコメントと要望    
                
平成20年3月
                                          新しい歴史教科書をつくる会 
                                            (小山常実作成)                                                                                    
                                                    

一、今回の改定案に対する総合的評価

  新中学校学習指導要領案の〔公民的分野〕について検討してみると、部分的には良くなった部分も有るが、総体的には改悪されたといってよい。改定案は、大きく言って、否定的な二つの特徴を有している。第一の特徴は、利益社会論の立場から、社会を解体してバラバラな個々人に解体しようとしていることである。とりわけ、この特徴は、家族や地域社会について触れず、契約をことさらに強調している点に現れている。特に家族や地域社会の無視は、教育基本法に違反しているとさえ言えよう。 

  第二の特徴は、「半国家」あるいは保護国の思想から、国家を解体し、諸外国に従属させようとしている事である。この特徴は、特に国内政治の領域で国家論が登場しないこと、国際関係の領域で「国際協調の観点」と国連が強調され、「国益の観点」も自衛隊も出てこない事に現れている。 

 それゆえ、是非とも、二つの否定的な特徴を失くすように改定案を修正していただきたいと考える。具体的には、最低限、以下に挙げる六点の修正を改定案に対して施されるよう要望するものである。


二、具体的な修正の要望

①目標(3)について
「自国を愛し……」の部分を「伝統と文化を尊重し、我が国と郷土を愛し……」に修正すること

②内容(1)のアについて
「少子高齢化」、「情報化」、「グローバル化」の三点に代表される社会変動と「現代日本の特色」を分けること。そして、「現代日本の特色」の例として、ものづくりの底力、アニメその他の文化発信力などを挙げること。

③内容(1)のイについて 
見出しを現行指導要領と同じ「個人と社会生活」に戻す事。文章も現行指導要領通りに戻すこと。改定案を基にするにしても、家族と地域社会を記すこと。

④内容(3)「ア 人間の尊重と日本国憲法の基本的原則」について
1、最初に「ア 日本国家の歩みと特色」あるいは「ア 国家と国民」という題の項目をおくこと。
2、第一文の「人間の尊重についての考え方を、基本的人権を中心に深めさせるとともに」を、「人間の尊重についての考え方を、国民の基本的人権と公共の福祉を中心に深めさせるとともに」へ修正すること。
3、第二文を、「日本国憲法」を七原則でとらえる立場から書き直すこと。せめて、昭和三十年度版学習指導要領のような五原則説の立場を記すこと。
 4、第二文に「象徴及び国家元首としての天皇の地位」と記述すること。

⑤内容(4) 「ア 世界平和と人類の福祉の増大」について
 1、「世界平和の実現と人類の福祉の増大のためには、国際協調の観点から」の部分を「世界と日本の平和、人類の福祉と日本の繁栄を確保するためには、国際協調と国益の観点から」へ修正すること。
 2、自衛隊や外交の役割について記すこと。
3、日本人拉致問題、尖閣諸島、北方領土、竹島の領土問題を記すこと。

⑥内容(1)の取扱いについて
「(1)については公民的分野の導入部として位置付け、ア、イの順で行うものとし、適切かつ十分な授業時数を配当すること」の傍線部を削除すること。

三、今回の改定案に対する個別的評価

  上記六点の修正要望は、「1 目標」、「2 内容」、「3 内容の取扱い」という順序で改定案について分析検討した上で出されている。以下、「1 目標」の部分から順に変化した部分を中心にコメントしていくこととしよう。

Ⅰ、「1 目標」について

①目標(2)について
目標の部分の変化は一点だけである。目標(2)の部分を見ると、「個人と社会のかかわりを中心に理解を深めるとともに、社会の諸問題に着目させ」から「個人と社会のかかわりを中心に理解を深め、現代社会についての見方や考え方の基礎を養う(傍線部は引用者、以下同じ)とともに、社会の諸問題に着目させ」に変化した。傍線部が新しく加えられたわけである。
 この付け加え自身は一応問題ないものであるし、(2)の文章自身も問題があるわけではない。だが、「現代社会」という時に、あるいは「個人と社会のかかわり」という時に、一体何をイメージして「社会」という言葉を使っているのであろうか。〔公民的分野〕全体を読んでみると、現行指導要領には「家族」や「地域社会」という言葉が存在していた。ところが、改定案では二つとも消えている。どうも、改定案は、利益社会(ゲゼルシャフト、アソシエーション)と共同社会(ゲマインシャフト、コミュニティー)のうち、利益社会だけを重視し共同社会を否定的に捉える思想を表明しているようである。

②目標(3)について
目標(3)の部分では「a各国が相互に主権を尊重(記号は引用者、以下同じ)し、b各国民が協力し合うことが重要であることを認識させるとともに、c自国を愛し、その平和と繁栄を図ることが大切であることを自覚させる」と記されている。この文章は、現行指導要領から全く変化していないし、一応、もっともな事が記されている。

 しかし、「2 内容」や「3 内容の取扱い」の部分を見ると、aの主権の相互尊重、bの国際協力は明確に取り上げられているが、cの愛国は全く取り上げられていない。目標(3)を実質化するためには、「内容」の部分で「国家とは何か」「日本国家の特色」「愛国心」といった内容を取り上げる必要があろう。

  右の批判は現行指導要領にも当てはまることではあるが、現行指導要領が作られた時は旧教育基本法の時代であり、いたし方のない面があった。しかし、改正された新教育基本法の第2条第5号には、教育の目標として「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」が掲げられている。伝統と文化の尊重、国と郷土への愛、国際協調という3つの思想が表明されている。

  教育基本法が改正された以上、まず、目標(3)に3つの思想を盛り込むべきである。それゆえ、「自国を愛し……」の部分は、「伝統と文化を尊重し、我が国と郷土を愛し……」と修正すべきである。そして、目標(3)を生かすために、「2 内容」の部分にも、3つの思想を反映させるべきである。改定案をみると、伝統と文化の尊重という思想と国際協調の思想は「2 内容」に反映されているが、「我が国と郷土を愛する」という思想は全く反映されていない。改定案は、教育基本法第2条第5号の趣旨を十分に活かしていない、あるいは相当程度無視するものといってよいだろう。
 
Ⅱ、「2 内容」について

①内容「(1) 私たちと現代社会」「ア 私たちが生きる現代社会と文化」

1、全体構成について……大きく修正されている。現行指導要領では、「(1) 現代社会と私たちの生活」「ア 現代日本の歩みと私たちの生活」と題して、高度成長期から今日までの歩みを理解させつつ、「現代日本の特色に気付かせる」としている。アのテーマは「現代日本の特色」といえる。

  改定案は、高度成長期からの歩みを省略した上で、「ア 私たちが生きる現代社会と文化」という見出しに現れているように、「現代日本の特色」というテーマに加えて「文化」というテーマを設定した。この全体構成そのものは余り問題ないし、「文化」というテーマを設定したことは非常に評価できるといってよい。ただ、あえて言えば、「現代日本の特色」と「文化」の二つのテーマがしっくり結合していないように思われる。一テーマずつ一項目を立てた方が良かったように思われる。

2、第一文について……第一文は「現代日本の特色」をテーマとして扱っている。現行版では「現代日本の特色」を具体的に例示していなかったが、改定案は「少子高齢化」、「情報化」、「グローバル化」の三点を例示した。

  しかし、一般的にいって、「特色」とは肯定的な意味で使われる。「特色」として相応しいのは、ものづくりの底力、アニメその他の文化発信力などである。「少子高齢化」は「特色」ではなく客観的状況ないし克服すべき問題点である。現代日本の問題点を挙げるとすれば、「少子高齢化」以上に道徳や倫理の頽廃、「学力低下」の問題こそ挙げるべきであろう。また、「情報化」と「グローバル化」も、「特色」ではなく単なる客観的状況であり、何よりも日本に特有な現象ではない。「少子高齢化」他の三点を同列に掲げるとすれば、「特色」ではなく「社会変動」の代表的な例としてであろう。

  もちろん、「少子高齢化」、「情報化」、「グローバル化」の三点がなければ、現代日本をめぐる状況を理解することはできない。それゆえ、三点に代表される社会変動が起きていることは記述したらよいと思われる。だが同時に、第一文のテーマである「現代日本の特色」の例として、ものづくりの底力、アニメその他の文化発信力などを挙げるべきであろう。

3、第二文について……第二文は、内容的には評価できる。だが、もう一つ文章としてこなれていないし、前述のように第一文とうまく接合していない感がある。

②内容(1)「イ 現代社会をとらえる見方や考え方」

 1、全体的に……「現代社会をとらえる見方や考え方」ではなく、現行指導要領のように「個人と社会生活」に見出しを戻すべきである。見出しだけでなく、内容も文章も全て現行指導要領の方が圧倒的に優れている。改定はしない方がよいと思われる。

 2、第一文について……改定案は、「a人間は本来社会的存在であることに着目させ、b社会生活における物事の決定の仕方、きまりの意義について考えさせ、c現代社会をとらえる見方や考え方の基礎として、対立と合意、効率と公正などについて理解させる」と記している。a人間=社会的存在、b社会のルール、c現代社会の捉え方の三つの事柄を記している。

  現行指導要領を見ると、「家族や地域社会などの機能を扱い、人間は本来社会的存在であることに着目させ、個人と社会とのかかわりについて考えさせる」と記していた。ところが、傍線部の部分が削除された。家族や地域社会が消えたのには、本当に驚かされた。改定案は、家族に代表される共同社会を否定したいのであろうか。cの現代社会の捉え方の部分で「対立と合意、効率と公正」だけを挙げている点にも、利益社会論に偏した立場がうかがえる。更に言えば、「対立と合意、効率と公正」を挙げるとすれば、このイの部分よりも、「(2)私たちと経済」の部分で挙げる方が相応しいだろう。特に「効率と公正」はそうである。

  要するに、改定案は、利益社会論の立場で社会全体を捉えようとしているし、共同社会を利益社会化しようとしていると言える。今日、道徳や倫理の頽廃が大きな問題となっているが、その根本的な原因は家族や地域社会などが崩れていっていることにある。改定案がそのまま指導要領として確定すれば、本来共同社会であるべき家族等までも利益社会化し、道徳や倫理の衰退を更に推し進めることにつながろう。

 3、第二文について……社会のルールについて記した部分が改悪された。現行指導要領では、「個人と社会とのかかわりについて」考えさせる際に「社会生活における取り決めの重要性やそれを守ることの意義」に気付かせる、と記していた。「取り決め」という表現からして、守るべきルールの中には、法や契約といった人が造るものだけでなく、道徳や慣習などの自然に生まれるものも含まれていたと思われる。

  だが、改定案では、第一文の「b社会生活における物事の決定の仕方、きまりの意義について考えさせ」を受けて、「契約の重要性やそれを守ることの意義」と記している。「社会生活における物事の決定の仕方」という第一文の書き方からして、法や契約といった人間が意志的に作り上げるルールを重視していることが知られるが、第二文で更にことさらに契約の重要性を強調している。契約の重要性も、「(2)私たちと経済」の部分で取り上げるのが相応しいと思われる。

  にもかかわらず、経済と政治以外の領域を扱うべき内容(1)の箇所で契約をことさらに強調するとは、道徳などを軽視し、社会生活を法的関係、権利関係、契約関係に還元してしまおうという思想が現れているものと思われる。要するに、共同社会さえも利益社会化し、個々人を結びつける紐帯を解体しようとする思想である。

 4、改正教育基本法との関連から……改正された教育基本法は、前述のように、第二条第5号で「我が国と郷土を愛する」という思想を表現した。また、第十条で「家庭教育」を、第十三条で「学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力」を掲げている。この改正基本法の趣旨からしても、このイでは、家族、地域社会(郷土)、国の三者を取り上げ、三者に対する愛情を取り上げるべきである。ところが、改定案は三者とも取り上げなかった。特に家族と地域社会を無視した事は、完全に改正教育基本法に違反していると考えられる。

③「(2)私たちと経済」「ア 市場の働きと経済」 
  見出しは変化したが、文章はほぼ同一である。「社会における企業の役割と社会的責任について考えさせる」の文言から「社会的」が削除されただけである。特に言う事はない。

④内容(2)「イ 国民の生活と政府の役割」
  見出しは「国民生活と福祉」から「国民の生活と政府の役割」へ変化した。より、このイという項目の内容に合致した表現になったので、評価できる。文章は変化したが、内容はほぼ同一である。特に言うべき事はない。

⑤「(3) 私たちと政治」「ア 人間の尊重と日本国憲法の基本的原則」 

1、全体的構成……このアのタイトルは現行指導要領と同じであり、文章も二文からなっており、ほとんど同一である。違いは、現行指導要領では第一文に「法の意義に着目させ」と記されていたのが、改定案では「法の意義を理解させ」に変化した事だけである。

  だが、相変わらず、国家とは何か、国家の存在意義・役割とは何か、教えなくてもよい形になっている。国家論が存在せずにどうして政治が語れるのか。日本が真の独立国家になっていくには、国家論を中学生段階から教えていく必要がある。このアの前に「ア 日本国家の歩みと特色」あるいは「ア 国家と国民」という題の項目をおく必要がある。

 2、第一文について……第一文は、「a人間の尊重についての考え方を、基本的人権を中心に深めさせるとともに、b法の意義を理解させ、民主的な社会生活を営むためには、法に基づく政治が大切であることを理解させ、c我が国の政治が日本国憲法に基づいて行われていることの意義について考えさせる」と記されている。内容はa基本的人権、b「法に基づく政治」、c「日本国憲法」の存在意義という三点から成り立つ。

  bとcの文言は問題ないが、aには国家という思想を否定してきた戦後日本の後遺症が残っている。「日本国憲法」第三章は「国民の権利及び義務」と記しており、第十一条も「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない」と述べている。すなわち、基本的人権の第一次的主体は国民である。また、そもそも〔公民的分野〕の目的は、教育基本法第一条に「教育は……心身ともに健康な国民の育成を期して行わなければならない」とあるように、国民の育成にある。それゆえ、「国民」という単語をaに入れる必要がある。

  また、人権という思想は重要なものではあるが、人権偏重の考え方が道徳や倫理の衰退を招き「人間の尊重」という考え方を台無しにしてきたことを思い起こすべきである。また、「日本国憲法」第三章を見ても「公共の福祉」という言葉が多数見られるし、「公共の福祉」という思想には人権偏重あるいは人権濫用を抑える役割が期待されている。aには「公共の福祉」という文言を入れる必要がある。

  したがって、aは、例えば「人間の尊重についての考え方を、国民の基本的人権と公共の福祉を中心に深めさせるとともに」へ修正する必要がある。

 3、第二文について……第二文は、「また、a日本国憲法が基本的人権の尊重、国民主権及び平和主義を基本的原則としていることについての理解を深め、b日本国及び日本国民統合の象徴としての天皇の地位と天皇の国事に関する行為について理解させる」と記されている。aは「日本国憲法」の原則、bは天皇をテーマとしている。

 aもbも大きな問題をはらんでいる。aから言えば、相変わらず、「日本国憲法」の原則を基本的人権尊重、国民主権、平和主義の三原則でとらえる偏った学説を採用している。「日本国憲法」の基本原則としては、上記三原則に加えて、間接民主主義あるいは議会制民主主義、三権分立、立憲君主制あるいは象徴天皇制、そして法治主義あるいは法の支配の四原則を挙げることができる。すなわち七原則である。

  この七原則から、間接民主主義や三権分立その他の自由主義的な原則をわざわざ排除して出来上がったのが、三原則説である。特に、前文を読めば分かるように、「日本国憲法」の第一原則である間接民主主義あるいは議会制民主主義を排除したところに、三原則説の大きな問題がある。つまり、「日本国憲法」を一面的に偏して解釈することによって、三原則説が誕生したのである。

  それゆえ、三原則説なるものは、もともと憲法学界では存在しなかったし、一九七〇年代までは完全に少数派であった。一九八〇年代以降に広がっていくが、今でも憲法学界では定説とはいいがたいものである。三原則説とは、日教組系の学者または教員が昭和三十年度以降の公民教科書で広げてきたものである。そして、この公民教科書で育った憲法学者が多数になった一九八〇年代以降、憲法学界でも半数ほどの支持者を集めてきたのである。したがって、aの部分は、三原則説ではなく、七原則説の立場から書き直すべきである。せめて、昭和三十年度版学習指導要領の次のような五原則説の記述を参考にしていただきたいと考える。

  「日本国憲法における主権在民、基本的人権の保障、立法・行政・司法の三権分立の民主政治の原則や、平和主義や天皇の地位などの憲法の特色について理解させるとともに、国や地方の政治・行政・財政のしくみや運営などについても理解させる」。

 次いでbについて言えば、「象徴としての天皇の地位」という表現が問題である。天皇は諸外国から元首として認められているし、公権解釈も元首としている。それゆえ、「象徴及び国家元首としての天皇の地位」と記述すべきであろう。

 4、代案……上に見てきた問題点をなくすために、見出しを「イ 人間の尊重と日本国憲法の基本的原則」と題して、改定案を基礎にしたうえで、試みに不十分ながら代案を立ててみたい。

第一文  人間の尊重についての考え方を、国民の基本的人権と公共の福祉を中心に深めさせるとともに、法の意義を理解させ、我が国の政治が日本国憲法に基づいて行われていることの意義について考えさせる。

第二文 また、日本国憲法が議会制民主主義、国民主権、君主制、三権分立、基本的人権の尊重、平和主義及び法治主義を基本的原則としていることについての理解を深め、日本国及び日本国民統合の象徴及び国家元首としての天皇の地位と天皇の国事に関する行為について理解させる。

⑥内容(3)「イ 民主政治と政治参加」
  字句は少し修正されているが、基本的には現行指導要領と同一内容である。変化といえるのは、「国民の権利を守り、社会の秩序を維持するために、法に基づく公正な裁判の保障があること」という記述である。傍線部が新たに加えられた文言である。妥当な付加だと思われる。

⑦「(4)私たちと国際社会の諸課題」「ア 世界平和と人類の福祉の増大」

1、全体的構成……内容(1)「イ 現代社会をとらえる見方や考え方」に次いで改悪された箇所である。現行指導要領では、「(3) 現代の民主政治とこれからの社会」の中に、「ウ 世界平和と人類の福祉の増大」として位置づけられていた。ところが、改定案では、「(4) 私たちと国際社会の諸課題」という形で独立させている。

  文章を見ると、現行指導要領では三文で成り立ち、第一文は国際社会の基本的在り方を、第二文は日本と世界の安全保障を、第三文は経済社会問題をテーマとしている。改定案も三文から成り立ち、基本的には同じ構成となっている。大きな違いは、第一文のテーマとして「我が国の役割」が付け加えられたことである。

2、第一文……第一文は、「世界平和の実現と人類の福祉の増大のためには、国際協調の観点から、国家間の相互の主権の尊重と協力、各国民の相互理解と協力及び国際連合をはじめとする国際機構などの役割が大切であることを認識させ、国際社会における我が国の役割について考えさせる」と、内容が大きく付け加えられた。傍線部が付加された部分であるが、いずれも改悪といえる。

  第一に、「国際協調の観点」だけを付加するのはバランスを失する改定である。「国際協調の観点」と同時に、「国益の観点から」あるいは「自国の主権尊重の観点から」も付加すべきである。戦後日本が国際協調の観点からのみ行動する事によって、日本人を拉致され、竹島を侵略され、尖閣諸島を奪われつつある事を想起されたい。この部分には、日本の国益よりも諸外国の国益を重視する思想が明確に表現されている。

  更に言えば、「世界平和の実現と人類の福祉の増大のためには」という目的の中に、目標(3)にある「自国を愛し、その平和と繁栄を図ることが大切である」という趣旨をいれるべきである。例えば、「日本と世界の平和、日本の繁栄と人類の福祉を確保するためには」と修正すべきである。

  第二に、「国際連合をはじめとする国際機構などの役割が大切である」として、国連を肯定的にのみ一面的に描いている。だが、国際社会において国連が果たせる役割は限られている。日本との関係でも、国連は、日本人拉致問題の解決のためには極めて無力であるどころか、未だ「敵国条項」を維持して日本国を差別している存在である。そのような国連を、期待すべき国際機構の代表格として挙げる事には大きな問題がある。「国際連合をはじめとする国際機構」という付加を止めるか、国連の限界も記すべきであろう。

  更に指摘すれば、「日本と世界の平和、日本の繁栄と人類の福祉を確保するためには」国際機構だけに頼る事はできない。いや、「世界平和の実現と人類の福祉の増大のために」もそうである。むしろ、日本国自身の自助努力が必要である。この部分に自衛隊や外交について記すべきである。特に自衛隊について記すべきである。

  第三に、「国際社会における我が国の役割」が付加されたが、それは何を意味するのであろうか。「国際協調の観点」と「国際連合をはじめとする国際機構」を重視するわけだから、ひたすら、国連などに言われるままに、第三文にある「経済的、技術的な協力」を行うことだけが「我が国の役割」となる。そこには、極めて没主体的な日本国の姿がある。

3、第二文……第二文は、「その際、日本国憲法の平和主義について理解を深め、我が国の安全と防衛の問題について考えさせるとともに、核兵器などの脅威に着目させ、戦争を防止し、世界平和を確立するための熱意と協力の態度を育てる」とある。変化は、傍線部に「など」が入ったことだけである。「など」が入ったのは国際テロのことを考えてのことだろうが、端的にテロを入れたらどうであろうか。

  第二文で何よりも問題なのは、「核兵器」の問題が明確に書かれているのに対し、日本国にとって最も切実で真っ先に解決すべき問題である日本人拉致問題が明示されていない事である。他にも、切実な問題である尖閣諸島、北方領土、竹島の領土問題も入れるべきであろう。

 4、第三文……第三文は、「また、地球環境、資源・エネルギー、貧困などの課題の解決のために経済協力などが大切であることを理解させる」としている。「貧困」という言葉が入ったが、これ自身は改善といえるし、この第三文自身は一応結構な事を書いている。

  しかし、第一文ではもっぱら「国際協調の観点」と国連が強調され、第二文では核兵器の問題は書かれても日本人拉致問題は書かれていない。それゆえ、アを全体として読めば、諸外国の利益のために、日本国自身の意見は持たずに国連などの意見をそのまま聞いて、黙って資金と技術を提供する事が日本の役割である、ということになろう。つまり、アは全体として、国益よりも諸外国の国益を重視し、諸外国の意見を以て自国の意見とする「半国家」あるいは保護国の思想を表明しているといえよう。

 5、代案……そこで、改定案を基礎にしたうえで、不十分ながら代案を立ててみたい。

 第一文 世界と日本の平和、人類の福祉と日本の繁栄を確保するためには、国際協調と国益の観点から、国家間の相互の主権の尊重と協力、各国民の相互理解と協力及び国際機構などとともに、自衛隊と日本外交の働きが大切であることを認識させ、国際社会における我が国の役割について考えさせる。

第二文 その際、日本国憲法の平和主義について理解を深め、日本人拉致問題や北方領土、尖閣諸島、竹島の領土問題に代表される我が国の安全と防衛の問題とともに、核兵器やテロの脅威に着目させつつ戦争防止・世界平和確立の問題について考えさせるとともに、日本と世界の平和を確立するための熱意と協力の態度を育てる。

第三文 また、地球環境、資源・エネルギー、貧困などの課題の解決のために解決案の提示や経済協力などが大切であることを理解させる。

⑧内容(4)「イ よりよい社会をめざして」 
 
  イの部分は全く新しく設定された部分であるが、「持続可能な社会を形成するという観点から、私たちがよりよい社会を築いていくために解決すべき課題を探求させ、自分の考えをまとめさせる」と記されている。一応、結構なことが書かれている。

Ⅲ、「3 内容の取扱い」について

①内容の取扱い

1、(1)イについて……現行指導要領のイは、「生徒が内容の基本的な意味を理解できるように配慮して、専門用語を乱用したり細かな事柄や程度の高い事項の学習に深入りしたりすることを避け、日常の社会生活と関連付けながら具体的事例を通して政治や経済などについての見方や考え方の基礎が養えるようにすること」としていた。改定案では、傍線部が削除され、「その際、制度や仕組みの意義や働きについて理解を深めさせるようにすること」との文言が、最後に付け加えられた。

  この二点の修正は共に肯定的に評価する事ができる。特に、傍線部の制限がなくなったことは評価できる。現行指導要領では傍線部のような制限が多かったが、改定案ではこのような制限は全て無くなった。創意と工夫の余地が広がったという意味で、歓迎したい。

 2、(1)ウについて……新設された部分であるが、「分野全体を通して、習得した知識を活用して、社会的事象について考えたことを説明させたり、自分の意見をまとめさせたりすることにより、思考力、判断力、表現力等を養うこと。また、考えさせる場合には、資料を読み取らせて解釈させたり、議論を行って考えを深めさせたりするなどの工夫をすること」と記されている。肯定的に評価できる記述である。

②内容(1)の取扱い

 1、内容(1)「ア 私たちが生きる現代社会と文化」の取扱い
 「現代社会における文化」の例として、「科学、芸術、宗教」を取り上げている。これは評価できる。しかし、教育基本法第十五条では、「宗教教育」が掲げられている。この点からしても、「3 内容の取扱い」の箇所ではなく「2 内容」の箇所で「宗教」を登場させていただきたいと考える。

 2、内容(1)の教育順序について
 改定案は、「(1)については公民的分野の導入部として位置付け、ア、イの順で行うものとし、適切かつ十分な授業時数を配当すること」と記している。傍線部は新たに付加された文言であるが、これは改悪といえる。せっかく種々の制限を撤廃したわけだから、創意工夫の余地を広げる意味からも、傍線部を削除していただきたい。

③内容(2)の取扱い
 「『財政』については、少子高齢社会など現代社会の特色を踏まえて考えさせること」と記されているが、前述のような理由から、「特色」という言葉を別の言葉に置き換えた方がよい。

④内容(3)の取扱い
特に言うべき事はない。

⑤内容(4)の取扱い
 「国際社会における文化や宗教の多様性についても触れること」とあるが、これも評価できる。




2011/06/07 11:42
家族と地域社会が消えた、改訂増補版―――共同社会の...
http://tamatsunemi.at.webry.info/201106/article_4.html









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