平成24公民教科書資料Ⅲ(12)間接民主主義と直接民主主義

              Ⅲ、立憲主義か全体主義か

                (12)間接民主主義と直接民主主義
 
   
   戦後の公民教科書は、全体主義的民主主義を目指す人たちによって書かれてきた。彼らは、直接民主主義が大好きである。そして、直接民主主義を基礎づけるために、「日本国憲法」の国民主権を権力的な意味に歪曲してきた。

  しかし、「日本国憲法」の解釈史を追跡すると、少なくとも1970年代までは、主権=権威説が通説であり、多数説であった。すなわち、憲法解釈書は、主権を「権力を正統(当)化する権威」とか、「国の政治の在り方を最終的に決める権威」とか、「国の政治の在り方を最終的に決める意思の源」とか規定していた。この主権=権威説からすれば、国の政治の在り方を決めるのはあくまで国民の代表者であり、間接民主主義が政治の在り方として相応しいということになる。

  ところが、公民教科書は、昭和20年代以来、一部の教科書を除いて、主権=権力説を展開してきた。すなわち、例えば、「国民が政治のあり方を最終的に決めることができること」(今回の東書)と国民主権を定義してきた。そして、国民が政治の在り方を直接決めるシステムである直接民主主義こそが理想的な政治の在り方だと記してきた。そして、1980年代ともなると、直接民主主義への憧れを煽られ続けて学者となった人たちが、憲法学説でも主権=権力説を展開し始めていくのである。

  もちろん、全体主義的民主主義を目指す人たちといえど、間接民主主義で国家運営するしかないことは百も承知している。そこで、彼らは、現代国家は、技術的な理由で仕方なく間接民主主義で運営されるのだ、と展開する。決して、積極的に間接民主主義を推奨することをしない。間接民主主義が機能する場面を減らし、国民投票や住民投票に代表される直接民主主義の活躍する場面を増やしていきたいからである。積極的理由から間接民主主義を推奨するのは、育鵬社と自由社だけである。

  ただし、直接民主主義の欠点、害毒はあまたある。その点の指摘は、自由社が少しはしているが、極めて不十分である。他の六社は全くしていない。

  以下、比較資料を掲げておこう。


○分析項目
 ①国民主権の意義
 ②直接民主制と間接民主制



○東京書籍
①第3章1節「現代の民主政治」下、単元「2 民主主義と政治」下、「民主主義とは」の小見出し下、「民主主義の政治を行うためには、みんなで決めることが認められていなければなりません。国民が政治のあり方を最終的に決めることができること(国民主権)が必要なのです
 そして、みんなで決めるためには、それぞれの意見を自由に述べることや、それが平等に認められていることも必要です。そのためには、自由権や平等権などの基本的人権が不可欠です。民主主義は、一人ひとりを尊重すること(個人の尊重)を基本にしているのです。」(66~67頁)
②同単元下、「多数決と少数意見の尊重」の小見出し下、「みんなで話し合って決めるためには、話し合う場もなければなりません。国民や住民が直接話し合いに参加するやり方(直接民主制)もありますが、一度におおぜいが集まるのは困難ですし、複雑なものごとを決めたりするのには適しません。そのため、多くの国では代表者を選挙で選び、その代表者が集まって議会をつくり、ものごとを話し合って決めるというやり方(間接民主制)がとられています。これを議会制民主主義ともいいます」(67頁)。
 ・「直接民主制を採用しているスイス」の写真(67頁)。

○日本文教出版
 ①国民主権の意義……権力的
 ②直接民主制と間接民主制……第2編2章「国民主権と日本の政治」下、1節「民主政治と政治参加」下、単元「1 政治権力と民主主義」下、「民主主義とは」の小見出し下、「民主政治には、国民が重要な決定に直接参加して意思を表明するしくみ(直接民主制)と、国民が選んだ代表者が議会で決定するしくみ(間接民主制)があります」(81頁)のみ、。
 側注欄「⑥スイスの一部の州で行われている直接民主制」の写真(81頁)。
 ③備考……単元4に注①として一党制を説明し、「現代では、中国や北朝鮮などの国で行われています」(88頁)。
 ・首相公選制の小コラム(102頁側注欄)

○教育出版
 ①国民主権の意義……権力的
 ②直接民主制と間接民主制……第3章「わたしたちの暮らしと民主政治」下、1節「民主主義と日本の政治」下、単元「1 国民の意思を代表する政治」下、「国民が参加する政治」の小見出し下、「民主政治においては、全員が一度に集まり、納得のうえで物事を決めることができれば理想的です。これを直接民主制といいます。しかし、国のような大きな場では、人数が多すぎてそれは困難です。そこで、ある程度の規模の社会になると、まず自分たちの意見を代表する人を選び、選ばれた人が議会という場で話し合い、物事を決定していくしくみを作りました。これを間接民主制、または議会制民主主義(代議制)といい、現在、日本も含めてほとんどの民主主義国家の政治で行われています」(72~73頁)。
 ・上段に「④スイスの直接民主制(2009年) 人口の少ないスイスの一部の州では、現在でも市民が広場に集まって話し合い、挙手によって物事を決めています」(73頁)。

○清水書院
 ①国民主権の意義……権力的
 ②直接民主制と間接民主制……
①第2章「国民主権」下、第1節「民主政治の原理としくみ」下、単元1「民主政治の原理」下、「民主政治の二つの原理」の小見出し下、「現代の民主政治は、国民主権と基本的人権の保障という二つの原理を中心に成り立っている。
 民主政治のもっとも基本的な原則は、自分たちのことは自分たちで決めるという考えかたである。つまり、国民一人ひとりが、自分たちの国の政治について考え、決定すべきだということである。このように、政治のありかたをだれにも強制されずに判断し、決定することのできる権限を主権という。主権とは国の最高権力であり、この最高権力をもつ人を主権者とよぶ。民主政治においては、最高権力としての主権は国民にある。これが、日本国憲法に定められた国民主権である。」(56頁)
……ここまで、権力的な言い方を見たことがない。主権者という言葉が大好きな教科書。
②同単元下、「直接民主制」の小見出し下、「民主政治の制度には二種類がある。ひとつは直接民主制であり、もうひとつは間接民主制である。
 直接民主制は、人びとが直接、決定のありかたに参加する民主制である。直接民主制は、人口が少なく規模の小さい、また政治が解決すべき問題も少ない国では可能だが、現代国家ではむずかしい。しかし、たとえば日本でも、憲法改正の際の国民投票(レファレンダム)はこの制度にもとづいている。」(57頁)
 「直接民主制を採用しているスイスの州」の写真(57頁)

○帝国書院
①国民主権の意義……権力的
②直接民主制と間接民主制……
第2章単元2「国民主権と政治参加」下、「国民主権と政治参加」の小見出し下、「国民主権は、国民がさまざまな方法で政治に参加することで実現されます。そのうち、政治参加の中心的な方法は、選挙を通じて自分たちの代表を選ぶことです。社会が大規模になり、すべての国民が一か所に集まって話し合うことは不可能なため、国民から選ばれた代表者が議会をつくって政治を行う議会制民主主義(間接民主制)がとられています」(37頁)。

○育鵬社 
 ①国民主権の意義……権力的
 ②直接民主制と間接民主制……第3章「私たちの生活と政治―――民主政治と政治参加」下、第1節「民主政治のしくみ」下、単元1「民主主義とは」下、「直接民主主義と間接民主主義」の小見出し下、「市民が政治に直接参加して、討論や採決などを行い、決めていく方法を直接民主主義といいます。この方法は少人数の社会で、しかもむずかしい判断を要しないテーマの場合には適しているとされています。
 しかし、現代の国家や地方公共団体は規模が大きく組織も複雑化しています。また複雑でむずかしいテーマをかかえ、政治運営にも専門的な能力が必要とされています。そこで目先の利益のみにとらわれず、国民全体のために広い視野から、また中長期的な視点で冷静にものごとを判断できる人物を選挙で選び、その代表者が集まって政治を行うという間接民主主義 (議会制民主主義)が広く行われています。」(72~73頁)

○自由社
①国民主権の意義……権力的。ただし、権威的なようでもある。
②直接民主制と間接民主制……間接民主制を正面から推奨。
・間接民主制の長所……「国民一人ひとりは、決して政治に必要な知識をすべてもっているわけではありません。そのため、政治に優れた能力をもっている人を代表者として選び、政治に専念してもらうことにより優れた政治を期待しました。選ばれた代表の優れた能力によって、議論を効率よく行うことができます」(44頁)。
単元26下、「議会制民主主義の意義」の小見出し下、「議会制民主主義は、国民全員が政治に参加する直接民主主義にはない長所をもっています。政治は、幅広い国民の利害や意見を踏まえたうえで最善の決定をする仕事です。議会制民主主義における代表者は、政治を職業とする政治家として、その政治の能力を高度に磨き上げる機会が与えられるのです。議会制民主主義のもとでの国民は、政治家を育てるとともに、その能力をみきわめ、本当に能力をもった政治家を代表者に選出することが求められます」(76頁)。
側注①で、職業政治家に必要な能力に関するM.ウェーバーの主張が紹介(76頁)。
直接民主制の短所……古代ギリシャの直接民主主義において発生した諸問題に関するコラム(44頁側注欄)。




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