平成24公民教科書資料Ⅲ(7)天皇

               Ⅲ、立憲主義か全体主義か

                 (7)天皇


  学問的に言えば、現代日本も、立憲君主制国家である。そして、「日本国憲法」の原則として、自由社申請本のように立憲君主制というものをあげることができる。しかし、検定は、立憲君主制国家、立憲君主制という言い方を「日本国憲法」下の日本に関しては認めない。

  天皇に関する記述は、天皇制破壊の方向にはかなり逸脱できる。そもそも天皇に関する記述は指導要領では重要事項として指定されているにもかかわらず、5社は5行程度で済ませている。教出に至っては、「象徴天皇」といった小見出しさえもつけていない。また、「国事行為のみを行う」という、公的行為を無視した書き方をする教科書が三社も存在する。この実例を無視した記述に対しては、検定意見が付いていない。実は、現行教科書にも存在するのだ。

  これに対して、天皇制護持の方向の記述は、実例や公権解釈に基づく記述であっても削除されてしまう。例えば、学説ではかつて多数説であったにもかかわらず、あるいは公権解釈は天皇を君主と言えるとしているにもかかわらず、天皇君主論は決して展開することが出来ない。もっとひどいのは、国際社会で天皇は元首として遇されているにもかかわらず、天皇元首論はやはり正面から展開できない

  更に言えば、帝国議会における「日本国憲法」の審議過程では、国民主権とは天皇を含む全国民が主権を持つ意味であると理解されていた。すなわち、公権解釈は、天皇国民共同主権なのである。「日本国憲法」下では天皇は政治権力を持たないと規定されているから、この場合の主権とは権力の意味ではなく、権威の意味となる。それゆえ、国民主権とは天皇を含む全国民が最高の権威であるという意味になる。だが、このようなことも書くことが許されない。ともかく、天皇制護持の思想に対する国家統制は、余りにもすさまじいということを指摘しておこう。これは、戦っていくしかないであろう。
 
  以下、7社の記述を掲げよう。

  
○分析項目
 ①分量、小見出し
 ②写真
 ③象徴か権威か
 ④元首、君主とありや


○東京書籍
 ①分量、小見出し……小見出し、わずか5行
 ②写真……「天皇の国事行為-国会の指名にもとづく内閣総理大臣の指名」の写真
 ③象徴か権威か……象徴
 ④なし
「第2章 人間の尊重と日本国憲法」「1 人権と日本国憲法」の節見出し下、「3 日本国憲法の基本原理」の単元見出し下、「『象徴』としての天皇」という小見出しの下、全文引用。
 「日本国憲法では、天皇は主権者ではなく、日本国と日本国民統合の『象徴』となりました(憲法第1条)。天皇は政治についての決定権を持たず、憲法の定める国事行為のみを行います。天皇の国事行為には、すべて内閣の助言と承認が必要です」(37頁)。
・「天皇の国事行為①-国会の指名にもとづく内閣総理大臣の任命」の写真(37頁)

○日本文教出版
 ①分量、小見出し……小見出し、10行
 ②写真……あり
 ③象徴か権威か……象徴
④なし
第1章1節、単元「3 日本国憲法と国民主権」下、「象徴としての天皇」の小見出し下、全文引用
 「日本国憲法第1条は、天皇が日本国と日本国民統合の象徴で、この地位は、主権者である国民の総意に基づくと定めています。大日本帝国憲法では主権者だった天皇は、日本国憲法のもとでは、国の政治に関する権能をいっさいもたない象徴になりました。また、天皇に対して責任を負っていた議会や内閣は、主権者である国民に対して責任を負うことになりました。
 天皇は憲法に定められた国事行為のみを行います。これらの国事行為は、形式的・儀礼的な行為であり、内閣の助言と承認によって行い、内閣が責任を負います」(43頁)。
・「天皇の国事行為(国会の召集)」のタイトルで、御名御璽の写真(43頁)
・傍線部はおかしいのではないか。

○教育出版
 ①分量、小見出し……小見出しなし。5行のみ
 ②写真……有り
 ③象徴か権威か……象徴。象徴天皇制と初めて書かれたのではないか。ともあれ、象徴天皇制という言葉は、天皇は君主ではないということを言うための用語であり、国民教育で用いるのは適切ではない。
 ④なし
第2章1節単元「4 憲法の三つの柱」下、「国民主権」の小見出し下、天皇関係全文引用
 「国民主権のもとでは、天皇は日本国と日本国民統合の象徴であって、その地位は、『主権の存する日本国民の総意に基づく』としています(象徴天皇制)。また、天皇は、国の政治に関する行為は行わず、形式的・儀礼的な国事行為のみを行います。しかも、その行為には、内閣の助言と承認が必要とされています」(38~39頁)。
・「国会の開会を宣言する天皇」の写真(38頁)


○清水書院 
 ①分量、小見出し……サブ小見出しの下、5行のみ
 ②写真……なし
 ③象徴か権威か……象徴
 ④なし
第1章1節単元3「日本国憲法の成立と基本原理」下、「日本国憲法の原理」の小見出し下、続けて1ポイント落として、「天皇の地位」のサブ小見出し下、全文引用
 「天皇は、主権者である国民の総意にもとづいて、『日本国および日本国民統合の象徴』という地位をもつことになった。こうして、天皇は国の政治にかかわる権力の行使はできないことになり、儀礼や儀式など憲法が定める国事行為のみをおこなうことになった」(29頁)。 ・公的行為が無視される

○帝国書院
 ①分量、小見出し……8行
 ②写真……有り
 ③象徴か権威か……象徴
④なし
「第2章 日本国憲法について考えよう」単元2「国民主権と政治参加」下、「象徴天皇制」の小見出し下、
 「国民主権が日本国憲法で定められたことにより、大日本帝国憲法において主権者であった天皇の地位は大きく変わりました。天皇は『日本国の象徴であり日本国民統合の象徴』とされ、その地位は、主権者である日本国民の総意に基くと定められました(象徴天皇制)。天皇は国の政治を行う権限をいっさいもたず、国事行為をよばれる形式的・儀礼的な行為を行います。すべての国事行為はすべて内閣の助言と承認が必要で、内閣が責任を負います(第3条)」(36~37頁)。

○育鵬社 ①分量、小見出し……単元見出し、1頁強
 ②写真……有り
 ③象徴か権威か……象徴だが、半ば権威
 ④なし
第3章第1節単元3「国民主権と天皇」下、「国民主権」→「象徴としての天皇」の小見出し。・「象徴としての天皇」の小見出し下、全文引用
 「日本国憲法は、天皇について『日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く』(1条)と述べています。
 天皇は、内閣の助言と承認によって憲法の定める国事行為を行い、国政に関する権能(権利を行使する能力と資格)を有しないとされています(3条・4条)。国事行為には、……あります。
 天皇は、憲法に定められたこれらの国事行為以外にも、外国への親善訪問や外国からの賓客との会見、国内各地、福祉施設などの視察、国民体育大会や全国植樹祭への臨席などの公的行為と、国家と国民統合の象徴にふさわしい数多くの職務にたずさわっています。
 天皇は直接政治にかかわらず、中立・公平・無私な立場にあることで日本国を代表し、古くから続く日本の伝統的な姿を体現したり、国民の統合を強めたりする存在となっています」(42~43頁)。
・「日本の歴史・文化と天皇」の小コラム下、「皇室は、日本の成り立ちや、その後の歴史に深くかかわってきました。とくに天皇は、国の繁栄や国民の幸福を祈る祭り主として、古くから国民の敬愛を集めてきました。
 また、その精神的・宗教的な権威によって自らは権力をふるわないものの、そのときどきに権力をにぎる幕府などに権限をあたえる立場にありました。例えば幕府の将軍も征夷大将軍として、天皇から任命される形をとることで正統な権力となりました。
 大日本帝国憲法では、天皇は元首であり統治権の総攬者でしたが、例外的に実権を行使した以外は直接政治を行ったわけではありませんでした。
 日本の歴史には、天皇を精神的な中心として国民が一致団結して、国家的な危機を乗りこえた時期が何度もありました。明治維新や、第二次世界大戦で焦土と化した状態からの復興は、その代表例です。」(43頁)
・「皇室と福祉」の小コラム下、「施設を訪問し、国民に親しく声をおかけになる天皇皇后両陛下」の写真(43頁)。
・「天皇の国事行為(最高裁判所長官の任命)」の写真(43頁)。

○自由社
 ①分量、小見出し……単元見出し、大コラムの見出し下、4頁
       元の原稿は、検定過程で大幅に修正され、原形をとどめていない。
 ②写真……5枚
 ③象徴か権威か……象徴であり、半ば権威
 ④元首、君主とありや……君主とはない。半ば元首とする。
単元20「天皇の役割と国民主権」下、「歴史に基づく天皇の役割」の小見出し下、
 「天皇は、国家の平穏と国民の幸福を祈ることにより、 長い歴史を通じて国民の信頼と敬愛を集めてきました。日本の歴史において、権威と権力が分離するようになったのちは、天皇はみずから権力をふるうことなく、幕府などそのときどきの政治権力に正統性をあたえる権威としての役割を果たしてきました。
 日本国憲法のもとでの天皇も、日本の政治的伝統にならった役割を果たしています
。天皇は『国政に関する権能』すなわち政治権力を行使する権能をもちません(4 条)。しかし、内閣の助言と承認に基づいて、さまざまの国事行為をとり行います(6条、7条)。法律、条約、政令なども、この天皇の国事行為としての署名によって、国家の手続きが完了します。また、対外的には、天皇は諸外国から日本国を代表する元首としての待遇を受けることがあります。
「国民主権と天皇」の小見出し下、「日本国憲法第1 条は、天皇の地位を『日本国の象徴であり日本国民統合の象徴』と規定しています。これによって、天皇は、日本と国民全体の統合のための象徴としての役割を果たしています。この象徴という地位は、第1 条後半では、『主権の存する日本国民の総意に基く』とされています。
 日本国憲法が帝国議会で審議され成立したとき、この憲法第1 条の規定を自然なものとして、素直に国民が受け入れたのは、長い日本の歴史の過程のなかで考えて、天皇の存在や、天皇の果たしてきた役割が、まさしく日本国と国民統合の象徴にふさわしいと思ったからにほかなりません。
 憲法は、国民に主権が存すると規定しています(国民主権)。国民主権とは、国民の代表者が行使する政治権力に正統性をあたえる最高の権威が国民にあることを指しています。憲法の前文でも、国政の『権威は国民に由来』すると規定し、権威が日本国民の全体に存すると宣言しています。
 このように、天皇は、長い歴史をもつ日本の国民全体の総意に基づいて、日本国および日本国民統合の象徴として特別な地位についています。
 そのため、天皇は、政治に対して関与しない立場をつらぬくことで、つねに、国民の一部ではなく、国民の全体を代表し象徴することが期待されています」(58~59頁)。




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