資料・平成18~23年度中学校公民教科書分析(1)~(8)を載せて思うこと

  これまで6回にわたって、資料・平成18~23年度中学校公民教科書分析(1)~(8)を掲載した。ここまでの部分は、大雑把に言えば、公民教科書の原理的な部分ともいえる。その中でいろいろ考えることがあったので、箇条書きで示しておきたい。

 ①公民教科書は、公民を形成すべき課題を担っているのに、国家や政治権力について本当に教えていない。国家について説明せずに、国民主権、議会、内閣などについて生徒に理解させようとしてもできるわけがない。
 国際社会編では主権国家という言葉が出てくるが、ここでも国家の三要素説さえも展開しない教科書がかなりある。

 更に言えば、国民という言葉は、いつの頃からかなくなった、あるいは本当に減少した。代わりに、資料(4)でみたように「地球社会」という言葉が章タイトル等で用いられているが、「地球市民」(それ以前に市民)という言葉を使う教科書が相当数存在する。「国民」→「市民」→「地球市民」という変化がこの30年間にわたって進行してていることに注意されたい。

 要するに、国家の解体にとどまらず、国家解体を完全ならしむるために国民の解体を目指しているのが、今の公民教科書なのである

 ②家族論について言えば、ともかく、親子関係について本当に教科書は記さない。記しても、その指導被指導関係、上下関係に触れない。家族を律する原理として出てくるのが、ほとんどの教科書では平等原理のみである。それゆえ、家族の共同体性を記す教科書は、ほんの少数である。このような教育を行っているならば、家族が解体していくのも当然かもしれない。家族を解体して個々人を国家権力に隷属させようという流れは、公民教育から必然的に生まれたものともいえよう。

 ③資料(5)(6)(7)(8)で掲げたところからわかるように、西欧政治史、政治思想史の箇所では、国民主権よりも人権と三権分立が強調されている。すなわち、一応、立憲主義的なのである。ところが、「日本国憲法」の箇所では、三権分立を排除した「日本国憲法」三原則が提示され、国民主権が大スターとなっている。何ともおかしなことである。ちなみに、扶桑社さえも、三原則説を採用している。


 ④ここまでの資料を載せてみて、一応評価できる教科書は、大阪書籍(現日本文教出版)、清水書院、扶桑社の三社である。他の5社は評価できないが、その中でも評価できないのは、日本書籍新社、東京書籍、教育出版の三社である。そして、残念なことに、東京書籍は60.9%、教育出版は12.1%、日本書籍新社は1.8%の採択率であり、計74.8%ともなる。

 ⑤あえて言えば、一番評価できる教科書は清水書院、次いで大阪書籍、三番手は扶桑社である。三者の差は僅差ではあろうが、資料(3)(4)でみたように国家論という点では清水書院は断トツの記述をしている(とはいっても、少々不十分ではあるが)。また、資料(5)(6)(7)(8)で掲げたところからわかるように、英国についてもちゃんとふれ、最も立憲主義、自由主義についてきちんとした説明をしているのが大阪書籍である(とはいっても、不十分ではあるが)。明らかに、扶桑社は、国家論という点では清水書院に、立憲主義の点では大阪書籍に劣る記述になっているのである。

 私は、2005年の『公民教科書は何を教えてきたのか』でも扶桑社の記述で悪化した点を少々指摘したが、今回8社を並べてみて愕然とした。原理的な部分に関しては、扶桑社の教科書は、清水書院や大阪書籍と並ぶ、あるいはこの二社に劣る教科書なのである。扶桑社の初版についても比較検討してみれば、初版は、特に資料(5)(6)(7)(8)の部分に関しては大阪書籍よりもはるかに優れた記述をしていた。明らかに、2002年から2004年3月までの教科書作成過程において、内容的には、原理的部分で改悪あるいは思想的後退が進行していたのである。そして、この思想的後退は、日本のこの数年間の衰退に関係しているように思われてならないのである。

 ただし、原理的な部分ではなく、具体的・各論的な部分では扶桑社の記述が他社より相当大きくすぐれているという印象がある。そしてまた、初版より改悪されたわけではないという印象がある。それらの点は、100%の確言はできないが、今後の掲載で明らかになっていくものと思われる。

 ⑥ともかく、国家論を教えない、家族の共同体性を教えない、といった戦後の公民教育が、家族解体政策と国家解体政策が考え出される根源にある。国家と家族についてきちんと教育する公民教科書が広がっていくことを願って筆を擱くことにする。

  今後さらに10数回にわたって公民教科書の資料を示していきたい。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 2

面白い
かわいい

この記事へのコメント

okusama
2010年10月25日 21:45
生徒は公民は面白くない教科だと思っているでしょう。でも、知らず知らずのうちに、こういった無国籍化した地球市民になることが善であるというような思想が入り込んでいくのでしょう。公民の劣悪な教科書こそ、恐ろしい教科書ですね。

文部科学省の誰一人、こういった視点で教科書を点検しようと考えた人はいないのでしょう。責任を投げてしまっていますね。小山先生の緻密な比較研究に本当に感謝いたします。

この記事へのトラックバック