「日本国憲法」、公民教科書、歴史教科書

アクセスカウンタ

zoom RSS  『歴史教科書と著作権――育鵬社歴史教科書事件判決を批判する』(三恵社)の出版

<<   作成日時 : 2016/12/13 23:47   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 0

 『歴史教科書と著作権――育鵬社歴史教科書事件判決を批判する』(三恵社)の出版

 今から五年前、育鵬社の歴史教科書が、平成二十三年の中学校歴史教科書採択戦に登場しました。この教科書は、十七年出版の『新しい歴史教科書』の内容と文章を下敷きにして作られたものでしたが、中にはデッドコピーの箇所も多数存在しました。そこで、十七年版『新しい歴史教科書』の代表執筆者である藤岡信勝氏は、全部で四七箇所にわたる著作権を侵害されたとして育鵬社を訴えましたが、平成二十六年十二月十九日には東京地裁が、二十七年九月十日には知財高裁が藤岡氏の訴えを棄却しました。

 知財高裁曰く――《歴史教科書の著作権は、一般歴史書と比較しても創作性のある場合に初めて認められる。したがって、国史大辞典等に既に書かれている歴史事実などを分かりやすくありふれた文章で記述したとしても、その教科書には著作権は認められない。》

 歴史教科書というものは、言うまでもなく、一般歴史書に既に書かれているような歴史事実などを取り上げて、分かりやすくありふれた文章で記すものです。ですから、この判決は、歴史教科書の著作権を原理的に否定したものだと言えます。今後は、コピペ教科書があふれる事態となっていくかもしれません。いや、それどころか、著作権法秩序全体が崩壊してくかもしれません。何とも、とんでもない判決が出たものです。

 平成二十三年以来五年間この事件を追い続けてきた私は、判決確定後、一審二審判決の論理を分析し、判決の不当性について考察し原稿に認めてきました。ようやく、八月に脱稿し、このたび、『歴史教科書と著作権――育鵬社歴史教科書事件判決を批判する』(三恵社)という題名で、出版にこぎつけることができましたので、ご報告します。

 https://www.amazon.co.jp/dp/4864875766/

 以下に、本の宣伝を兼ねて、「はじめに」の部分を掲載します。この本は、「はじめに」で記しているように、著作権法の専門家又は著作権や歴史教科書に関心のある方に是非読んでいただきたいものです。少しでも、読者が増えれば、そのことが歴史教科書の著作権を守り、著作権法秩序全体を守ることにつながるのではないかと考えるものです。


   ――――――――――

はじめに

 平成二十三(二〇一一)年三月、平成二十二年度検定に申請していた育鵬社の『新しい日本の歴史』(伊藤隆執筆者代表、二十四年度から二十七年度使用)が検定合格した。この教科書は、「新しい歴史教科書をつくる会」(以下、「つくる会」と略記)が主導して作り上げた『新しい歴史教科書』(藤岡信勝代表執筆者、扶桑社、平成十六年度検定、十八年度から二十三年度使用)と多くの部分で酷似した内容と酷似した文章から成るものであった。

 例えば、二つの教科書は「稲作開始」に関して次のように記していた。傍線部は、筆者が付したものであり、文章表現が酷似ないし同一と思われる部分である。

○『新しい歴史教科書』(平成十七年版、扶桑社)
  すでに日本列島には、縄文時代に大陸からイネがもたらされ、畑や自然の水たまりを用いて小規模な栽培が行われていたが、紀元前4世紀ごろまでには、灌漑用の水路をともなう水田を用いた稲作の技術が九州北部に伝わった。稲作は西日本一帯にもゆっくりと広がり、海づたいに東北地方にまで達した。 (24頁)

○『新しい日本の歴史』(平成二十三年版、育鵬社)
  わが国には、すでに縄文時代末期に大陸からイネがもたらされ、畑や自然の湿地で栽培が行われていました。その後、紀元前4世紀ごろまでに、灌漑用の水路をともなう水田での稲作が、大陸や朝鮮半島から九州北部にもたらされると、稲作はしだいに広がり、東北地方にまで達しました。  (24頁)

 この例は、酷似のレベルを越えてデッドコピーと言えるほど類似している。明らかに、育鵬社の文章は、『新しい歴史教科書』を模倣どころか盗作して作り上げられたものである。育鵬社版には、デッドコピーとは言わなくても、『新しい歴史教科書』と酷似した箇所が全部で四七箇所も存在した。そこで、『新しい歴史教科書』の著作権を有する代表執筆者藤岡信勝氏は、「つくる会」の方針のもとに、平成二十五年四月、育鵬社や伊藤隆氏ら執筆者が上記例を含む四七箇所で氏の著作権を侵害しているとして東京地裁に提訴した。

 しかし、平成二十六(二〇一四)年十二月十九日、東京地裁は原告敗訴の判決を下し、デッドコピーとも言える上記例を含めた四七箇所全てについて著作権侵害を認めなかった。これに対して原告は、著作権侵害であると主張する部分を二一箇所に絞って知財高裁に控訴した。だが、平成二十七年九月十日、知財高裁は、東京地裁判決の趣旨をほぼそのまま繰り返し、控訴を棄却した。原告・控訴人は、控訴に際して育鵬社等の行為は不法行為を構成すると主張したが、知財高裁は不法行為の成立も認めなかったのである。

 しかし、このような知財高裁の態度は正しいものであろうか。常識的に考えて、上記例のように百字を優に超えるデッドコピーは、当然に不法行為であり、著作権侵害行為ではないだろうか。事実、その点を意識していたのか、育鵬社は、同年四月に検定合格した『[新編]新しい日本の歴史』では、「稲作開始」の部分を、基本的内容は変えずに具体的文章を次のように全く変えてしまっていた。

 大陸や朝鮮半島から伝わった水田稲作は、縄文時代の終わりごろに、北九州で本格的に始められました。その後、水田稲作は、北海道や沖縄などを除く日本中に、しだいに広まりました。(28頁)


 育鵬社は、「稲作開始」の箇所における盗作又は著作権侵害を自覚していたと推測される。だからこそ、全く違う文章に変えてしまったのである。にもかかわらず、控訴審は、不法行為も著作権侵害も認めなかった。結局、一審も二審も、『新しい歴史教科書』から多数の部分を盗作して作成した教科書を合法と認めてしまったのである。ちなみに、控訴審でも著作権侵害であると控訴人側が主張した二一箇所について調査したところ、そのほとんどで文章が修正されていた。

 「つくる会」理事を務める筆者は、平成二十三年から五年間、この育鵬社歴史教科書問題を追い続けてきた。他の仕事をしている時も、この問題が筆者の頭から離れることはなかった。それゆえ、二審判決を前にして、このように非常識な判断がなされた理由について考え続けた。判決の論理とはどういうもので、果たして正しいものであろうか。折に触れて、筆者は自問し続けた。これらの問いに対する答えはなかなか見付からなかった。

 ただし、はっきりしていることが一つだけあった。それは、二審判決は歴史教科書の著作権を原理的に否定するものだということである。それゆえ、今後の歴史教科書はいろいろな教科書から文章を切り貼りして作っても、1頁以上の文章を他社から丸ごと盗作しても合法であるということになる。歴史教科書については盗作し放題の状態が訪れる危険性があるということだけは、筆者にとって明白であった。

 筆者は、この危険性を少しでも減らすためには、判決、特に二審判決に対する批判が必要であると考え続けた。平成二十八年一月になって、この作業に集中する余裕が生まれた。以来、数か月、判決批判を一応完成させることができた。その成果が本書である。

 本書の第一章では、育鵬社はどのように『新しい日本の歴史』を作成し、どのような著作権侵害及び盗作を行ったのか、また、何故に裁判で争われるまで事態はこじれたのか、これら二つの課題について検討していくこととする。

 第二章では、一審で何が争われたか、著作権侵害を認めなかった一審判決の論理とはどういうものか、明らかにしていく。第三章では、被告側を勝利に導いた乙45号証などの証拠に焦点を合わせて、それらがどのような証拠だったか、検討していく。次いで第四章では、二審で新たに控訴人側が主張した論理を明確にしたうえで、二審で何が争われたか、控訴棄却した二審判決とはどういうものか、明らかにしていく。

 第五章では、著作権法の本義に照らして、判例・学説との絡みで、二審判決はどのように位置づけられるか、検討を試みることとする。

 本書の目的は、二審判決の不当性を、著作権法の専門家及び著作権問題に関心のある人達に訴えて、このように不当な判決が二度と出されないような社会的世論を形成することにある。もともと筆者が育鵬社歴史教科書問題に関心を持ったのは、「つくる会」理事という立場からであり、育鵬社が『新しい歴史教科書』の内容ばかりか、文章までも模倣して教科書作成を行ったことに対する憤りからであった。しかし、判決が確定した今となっては、育鵬社に対する批判よりも、判決に対する批判こそが重要である。判決批判が的確なものとなっているかどうかは、読者の判定に委ねたい。


   転載自由 




テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
なるほど(納得、参考になった、ヘー)
ナイス

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
 『歴史教科書と著作権――育鵬社歴史教科書事件判決を批判する』(三恵社)の出版 「日本国憲法」、公民教科書、歴史教科書/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる